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谷岡から頂いた豪の連絡先が書いてあるメモを、奈美は、帰宅してからもずっと見続けていた。
男らしく達筆な文字を、豪本人が書いたのかと思うと、胸がいっぱいになってしまう。
彼女はスマホを取り出し、彼のプライベートの携帯番号を途中までタップしたけど、勇気が出なくて終了ボタンを押した。
これを三十分ほど、ずっと繰り返している状態。
時間はまだ十八時半。
もしかしたら、彼はまだ仕事中かもしれない。
そう考えると、プライベートの携帯に電話をするのが、迷惑なのではないか、と思ってしまう。
奈美は、大きく深呼吸を数回した後、ヨシ! と気合を入れて、メモを見ながら彼の携帯番号をタップした。
呼び出し音が鳴り、彼女の鼓動はバクバクしている。
胸に手を当て、自分自身に落ち着け、と言い聞かせているが、呼び出し音はまだ鳴り響いている状態。
コールが十回目になったところで、奈美は通話終了のアイコンをタップした。
(やっぱりまだ忙しいんだろうな……)
こんなに心臓がドキドキして、胸の奥が苦しくなるのは、初めての事。
一日に何度も着信履歴に自分の携帯番号を残すのも、何だかしつこそうで嫌だな、と思ったので、メモを貰った当日は一度だけの電話にしておく。
彼女は、彼の携帯番号を電話帳登録した。
翌日も、仕事を滞りなく終わらせ、今度は、少し遅めの時間に掛けてみようと考えた。
シャワーを浴び、夕食を済ませると、時刻は十九時半になろうとしている。
(ああ、またこのドキドキタイムが始まる……)
念のためメモを手元に置き、心臓が暴れ出しそうなのを堪えて、通話履歴から豪の携帯番号を見つけてタップした。
耳元で、呼び出し音が鳴り始める。
心臓の鼓動が更に大きく打ち鳴らされ、早く解放されたい、なんて思ってしまう自分は、嫌な女なのだろうか?
彼に電話に出て欲しいような、このまま出ないで欲しいような、相反する思いがせめぎ合う。
昨日と同様、呼び出し音が十コール目になったところで、奈美は、通話終了のアイコンをタップすると、大きくため息をついた。