コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「RBの大ファンですね!?」
鋭い目をしていた新藤さんは、私の剣幕に少し目を丸くした。
少しして、ぷっ、と吹き出された。あ、新藤さん、こんな風に笑うんだ。素の顔かな? 結構カワイイ笑顔だった。
「律さんは面白いですね。私がRBの大ファンに見えますか?」
新藤さんに真顔で返された。
「見えないから、驚いているのですよ! で、どうなのですか!?」更に詰め寄った。
「私がRBのファンだったら、どうされるおつもりですか?」
「あのっ、私、今でもRBが大好きなのです! RBがデビューの時から解散するまでファンクラブに入っていたほどの筋金入りのファンでして。だから、新藤さんがRBをお好きなのだったら、是非語りたいです!」
「そういえば以前、RBのコピーバンドをしていたとおっしゃっていましたね。そうでしたか。RBがそんなにお好きとは。もう解散して随分なりますが、まだお好きなのですか?」
「はい!」
私は満面の笑顔で答えた。白斗を語らせたら、一日では足りないくらい好きなのだ。
「今でも好きで、ずっと聴いています。なので新藤さん、正直に答えて下さいね。こんなレア音源を持ってるほどに、RBがお好きなのですね? 隠してもムダですよ」
更に詰め寄ると、新藤さんは苦笑いをしていた。
「あの……大ファンという訳では無いのですが、実は私、大阪のライブハウスで働いていたことがありまして。RBはインディーズの頃から知っています。懇意にしていましたから、彼等のスタッフ経験もあります。手伝うとお礼に音源がもらえるのですよ。音楽好きですから、RBだけではなく様々なバンドの手伝いをしていました。RBは解散するまで付き合いがありましたから、音源は全て彼等からもらったものです」
「えっ、えっ、え――――っっ!?」
新藤さんの衝撃の告白に、ただただ驚きの声しか出なかった。
「まあ、昔の話です」
苦笑するように新藤さんが言った。
「あ、あの、じゃあ……白斗とも会ったことがあるのでしょうか?」
「ええ。会うもなにもスタッフをやっていましたから。必然的に……」
「ええ――っ、うらやましいーっ!!!!」
思わず大声で叫んだ。興奮してしまい、うらやましいを連呼した。
「新藤さん、白斗ってどんな人ですかっ!? 素顔はカッコイイですか? いやーっ、スゴイっ! 色々教えてください――」
そこまでまくし立てて、急に気分が悪くなった。そうだ。私は体調が悪いんだった。うっかり忘れていた。
でも、それは仕方がない。私にとって今の話は相当な衝撃だった。
「大丈夫ですか? あまり興奮なさらないように」
「はい。すみません・・・・」
調子乗った事を反省したけれど、興奮は覚めない。もっともっと、新藤さんから沢山の話を聞きたい。白斗の話を聞かせて欲しい。
私はシートに凭れながら、あれこれ質問した。
「白斗って、どんな人なのですか? 年齢は何歳くらいの男性なのですか?」
実は白斗のプロフィールール、誕生日以外の項目は一切公表していない謎の男性だった。MCも全く喋らず、ラジオも出ていなかったし、テレビで映っても無言を貫いていた。バラエティ寄りの音楽番組は一切出ず、ヴィジュアル系が出る番組ばかりに出演し、他のメンバーに喋らせていた。特に白斗をフォローするのは剣が多かった。本当に一言も喋らず、歌以外は歌わないように徹底していた。
そういう売り出し方だったのだろう。だからこんなにファンである私でさえ、彼の年齢は知らない。
「彼は謎の男です。ずっと無口なので、私も用事以外話す事はありませんでした。彼にはただ、私が一方的に用事を伝える位でした。年齢も存じておりません」
そうか。身近なスタッフの新藤さんでさえ、知らない事なんだ。
ますます白斗が謎の男に思えた。
「じゃあ、新藤さんはRBがどうして解散したのか、ご存じでいらっしゃいますか?」
「いいえ、そこまでは存じておりません。懇意にはしておりましたが、彼等の解散間近の頃は、私も忙しくしておりましたから、なにも聞かされておりません。音源はできあがる都度、剣が私の所へ送ってくれていました。それで、非売品の音源も持っているというわけです」
「そうでしたか……」
「お役に立てず申し訳ありません」
新藤さんは悪くないのに謝ってくれたので、気にしないで下さいと言っておいた。私が勝手に根ほり葉ほり聞いているだけなのに、彼は優しく微笑んでくれた。
あぁ……本当に優しい人だなぁ。営業マンだから当然なのかもしれないけれど、新藤さんはそれを超越しているような気がする。
「解散のことは、新藤さんのような関係者の方でも真相は知らないのですね。私、十代のころからずっと好きだったので、本当に残念です。もう解散してから六年も経つのに、未だに忘れられない大好きなバンドなのです」
「律さんは本当にRBがお好きなのですね。では、RBの幻の音源があったとしたら聴いてみたいですか?」
「えっ。そんなものがあるのですか!?」
「ええ。RBのインディーズ初期の曲です。恐らく、律さんも聴いたことがないような曲ですよ」
突然の新藤さんの言葉に、思わず身体が跳ねた。そんなの絶対聴きたい!!
「私、RBはデビューしてから好きになったので、インディーズの頃はあまり知らないのです。発売されているインディーズのベスト盤は買ったのですが……それ以外の曲ってことですよね?」
「はい。そうです。RBも活動を始めた頃はファンも少なくて、当時はデモ音源を無料で配っていました。曲としての仕上がりが微妙だったので、インディーズベストには収録されなかった、幻の曲です」
「えーっ!! 聴きたいですっ!」
「では…今度また私と一緒にライブを見に行って下さるなら、聴かせましょう」
「はいっ、行きます! 喜んで!」
即答した。悩む事なんか何もない。