第6話:娯楽の裏側
休日の遊園地。
観覧車がゆっくりと空をなぞり、子どもの笑い声と甘い菓子の匂いが漂っていた。
カイ=ヴェルノは、薄手の上着に身を包み、人混みの中に紛れていた。
黒髪は風に揺れ、灰色の瞳は静かに輝いている。手袋をした指先に持つのは、買ったばかりのチケットとポップコーン。
「普通の一日を過ごしたい」
その思いだけで、彼はここに来ていた。
映画館でも同じだった。
座席に腰を下ろし、スクリーンをじっと見つめる。声をあげず、ただ物語を楽しむ。
彼にとっては、ささやかな幸福だった。
だが、背後で囁きが広がる。
「ヴィランの末裔が娯楽を楽しんでる……」
「人心掌握のためじゃないか?」
その種を撒いたのはヒカル=セリオンだった。
水色の髪を光らせ、鮮やかなマントを肩にかけ、人々に笑みを振りまく。
「ヴィランは人を操る。楽しそうに見せかけて、心を掴もうとしているんだ」
彼の言葉は、群衆の不安をすぐさま煽る。
人々の視線が刺さる。
ヴェルノはただポップコーンを食べ、映画の余韻に浸っているだけなのに。
灰色の瞳に、孤独がまたひとつ積み重なった。
そこへ、ざらついた笑い声が響いた。
「普通に遊んで、普通に笑って。何が悪いんだ?」
グレン=タチバナだった。
灰混じりの髪、日に焼けた肌、地味な作業着風のコート姿。
彼は群衆の中で腕を組み、飾らない声で続けた。
「娯楽は誰だって楽しむもんだろ。血筋と関係あるか?」
その一言に、人々は一瞬言葉を失う。
セリオンの笑みがかすかに引きつった。
ヴェルノは驚いたようにグレンを見た。
灰色の瞳に、確かな光が少しだけ戻っていた。
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