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「しかし、侑に思いっきり先を越されちまったな。奏、俺たちも式の前に入籍しよう。互いの両親への挨拶も済んでるし、同棲して四ヶ月過ぎたし、式の日程も決まったし」
「そうだね。響野先生と瑠衣ちゃんの婚姻届を見たら、式の前に入籍したいって思っちゃった」
怜が先に署名をし、続いて奏も記入すると、婚姻届とペンを侑の方へ向けた。
「怜、音羽さん、本当にありがとうございます」
「葉山さん、瑠衣ちゃん…………ありがとうございます」
二人揃って怜と奏に深々と一礼すると、奏がバッグから上質な紙質の封筒を二通、侑と瑠衣に差し出した。
宛名には達筆な文字で『響野侑様』『響野瑠衣様』とそれぞれ書かれてあり、瑠衣は改めて、侑の妻になるんだ、と実感する。
「結婚式と披露宴の日程は十月の下旬だ。是非二人に出席して欲しい。それと侑。前も言ったが、余興で何か一曲演奏して欲しい。いいか?」
「ああ。もちろんだ」
その後、四人でコーヒーを飲みながら二時間ほど談笑した後、怜と奏は帰路についた。
***
「これで入籍の準備が整った。あとは役所に行って提出するだけだな」
言いながら侑がテレビのスイッチを入れると、ちょうどニュース番組が放送されている。
二人が何気なく聞き流しながらソファーに腰を下ろしてくつろいでいる、その時だった。
『次のニュースです。昨年十二月、東京の赤坂見附で発生した屋敷放火事件の指示役の女が逮捕されました』
瑠衣は弾かれたようにテレビに釘付けになり、侑は無表情のままニュースを観ている。
『逮捕されたのは、ピアニスト、島野レナ容疑者三十四歳で、島野容疑者は、自宅のあるオーストリアからインターネットを通じて闇バイトで実行役を募り、放火の指示をしたと見られています』
画面が切り替わり、島野レナが刑事に付き添われ、羽田空港を歩いている様子が映し出されている。
(まさかとは思ったけど……島野レナって…………侑さんの……元カノ……)
瑠衣は愕然としながらも報道を食い入るように見つめている中、島野レナ逮捕のニュースは更に続いた。
『オーストリア警察が島野容疑者を二日前に拘束、日本へ強制送還され、今朝、逮捕されました。島野容疑者は黙秘しており、二十代の女性を性的暴行及び拉致監禁の闇バイトで実行役を募集、指示した疑いもある事から、現在、警察は慎重に捜査を進めております』
ニュースが終わると、侑は後悔を含ませた表情でテレビのスイッチを切り、瑠衣と向かい合った。