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「瑠衣。本当に…………すまなかった。ハヤマの創業記念パーティであの女と遭遇した時、一緒に写真を撮らないか、と聞かれて俺が許可しなかったら……お前にも『いいよな?』って聞かなければ……瑠衣があの拉致監禁事件に巻き込まれる事はなかった。あの事件が起きたのは、俺の責任でもある。本当に…………申し訳ない……!」
苦渋に満ちた表情の侑が、ソファーに座っている瑠衣の前で土下座した。
「侑さん……やめて……! 侑さんのせいじゃないから! 犯人も逮捕されたし……侑さんの責任じゃないから!!」
彼女は彼を宥めてソファーに座るように勧めると、侑は徐に口を開いた。
「…………お前の性的暴行と拉致監禁の闇バイトの広告で、瑠衣の画像が十枚ほど載っていて、そのうちの一枚は、撮られた覚えがあるって、以前言ってたよな?」
侑の言葉に、瑠衣はコクリと頷く。
「その話を聞いた時、俺は、ハヤマの創業パーティで、島野レナが一緒に写真を撮らないかって言った事を思い出して、その時に撮った写真じゃないかってピンと来たんだ。瑠衣…………本当に……すまなかった……!!」
侑は瑠衣と一緒に警察署へ事情聴取に行った際、島野レナの事を調べて欲しい、と依頼していたが、瑠衣が入院中に捜査員から連絡が入り、警察署へ出向いていた。
長期に渡る地道な捜査の結果、昨年十二月の娼館放火、ゴールデンウィーク中に起きた瑠衣の性的暴行と拉致監禁の闇バイトの発信元がオーストリアだという事が判明し、オーストリア警察と連携を取り、今回の逮捕に至ったという。
侑は、考え事をしているのか膝の上で手を組み、一点をじっと見据えてた後、瑠衣に真剣な眼差しを向けた。
「なぁ瑠衣。今から役所に行って…………婚姻届を提出してこよう」
「…………え?」
「勝手な事を言っているのは百も承知だ。だが俺は…………今すぐに……瑠衣の夫になりたい」
突然の侑の提案に呆気に取られていると、彼はまだ鋭い目つきを湛えた真顔のままだ。
「瑠衣は大学を卒業してから、ずっと辛く苦しい思いをしてきた。それに、俺のかつての恋人だったあの女に、一生癒えることのない傷を付けられた。俺が……お前の過去に負った心身の傷を……全て忘れさせて癒してやる。俺はお前の傷を……今すぐにでも癒したい」
侑の中では、瑠衣の体調も考慮して、退院してから数日後に婚姻届を提出しようと考えていた。
だが、何もかもがクリアになった今だからこそ、侑は瑠衣を妻にしたいと強く思ったのだ。
「…………瑠衣、いいか?」
「いいけど…………侑さん、何か……焦ってない?」
「焦ってなどいない。俺は……瑠衣を妻にしたい。本当の意味で、俺だけの女にしたい」
恐らく、彼のこの言葉が真意なのだろう、と彼女は思う。
笑顔の花をぎこちなく満開にさせながら、瑠衣は深々とお辞儀をしつつ、侑に答えた。
「…………不束者ですが、よろしくお願いします」
まだ日中の暑さが微かに残る黄昏時、侑と瑠衣は役所へ足を運ぶと婚姻届を提出し、晴れて夫婦となった。
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