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それから、エステルはレグルスと度々会うようになった。


「おはよう、エステル」

「おはようございます、殿下」

「今日も可愛らしいね」

「あ、ありがとうございます……」


6歳年上のレグルスは、いつも礼儀正しく、エステルのことをまるでお姫様のように扱ってくれた。


初めは身分差があるからと最上級の敬語を使い、慎ましい距離感を取っていたエステルだったが、身分など関係ないと言って親しく接してくれるレグルスを次第に好ましく思うようになった。


王族との結婚が決められていることはやはり負担ではあったが、その相手がレグルスでよかった。

そう思ったことをさりげなく本人に伝えると、レグルスは一瞬驚いたように瞬いたあと、心から嬉しそうに微笑んだ。


「ねえ、エステル。これから僕のことは”殿下”ではなく、名前で呼んでくれるかな? ──レグルスと」

「えっ…………レ、レグルス、様?」

「ありがとう。僕は幸せ者だ」

「レグルス様……」


しかし、その日からレグルスはエステルに干渉するようになっていった。



◇◇◇



「……わたし、今朝のことレグルス様に言ったかしら」


あるとき、ふと呟いた独り言にハダルが反応した。


「どうかなさいましたか?」

「あ……今朝わたしが食事を残したことをレグルス様がご存知だったんだけど、そんなことを言ったかしらと思って……」

「侍女か誰かからお聞きになったのではないですか? エステル様のことを心配なさっているのでしょう」

「たしかに、そうかもしれないわね。あまりご心配をおかけしないようにしなくちゃ。ありがとう、ハダル」

「いえ」


しかし、その後もエステルがいつどこで何をしたのか、そばにいなかったはずのレグルスが詳しく把握していることが続き、不思議に思ったエステルはハダルに相談することにした。


「……エステル様、まさかとは思いますが、レグルス殿下から何か身につけるものを贈られたりしましたか?」

「身につけるもの? あ、そういえば……」


──君のために作らせたお守りだよ。肌身離さず身につけてね。



そう言ってレグルスが贈ってくれたお守りを、エステルはいつも持ち歩いていた。

今、このときも。


(まさか……)


エステルが恐る恐るポケットからお守りを取り出す。


「こ、これ……」


ハダルに見せると、彼はお守りを手に取って隅々まで検めた。


「……おそらくですが、盗聴の魔法がかけられていると思われます」

「何ですって!?」


ハダルはそれ以上のことは言わなかったが、エステルは理解した。

盗聴の魔法を仕込んだのはレグルスで、この魔法を通じてエステルの動向を把握していたのだと。


(でも、あのお優しいレグルス殿下がどうして?)


エステルのことを疑って探ろうとしているのだろうか。

それとも、やはりエステルと結婚などしたくなくて、何か瑕疵かしを見つけようとしているのだろうか。


(レグルス殿下にお聞きしなくては……)


どこか不気味に見えてきたお守りの処分をハダルに頼んだあと、エステルは力が抜けたようにベッドに倒れ込んだ。



◇◇◇



「え……ハダルが辺境の神殿に異動……?」


数日後、神殿を訪れたレグルスから告げられた事実に、エステルは衝撃を受けた。

たしかに、昨日から姿が見えないと思っていたが、休暇でも取っているのかと思っていた。


「どうしてハダルが……。せめて挨拶をしたかったです。一番親しい神官だったのに……」


落ち込むエステルの前で、レグルスは晴れやかな笑顔を浮かべて言った。


「ああ、やっぱりすぐに追い出して正解だったな」

「……どういうことですか? ハダルがいなくなったのは、レグルス様のご指示だったのですか?」


エステルがレグルスの言葉の意味を問うと、彼はエステルを真っ直ぐに見つめて、当然のように返事した。


「あの神官は君との距離が近すぎた。それに、僕と君の恋愛を邪魔しようとしたからね」

「そんな理由で……? それに、恋愛って……」


あまりにも理不尽で一方的なレグルスの言い分に、エステルは耳を疑った。


ハダルは優秀な神官だったのに、そんな理由で追い出されてしまっただなんて。

そして恋愛とは、まさかエステルを盗聴してすべてを把握しようとしていたことを言っているのだろうか。


「君は結婚相手が僕でよかったと言ってくれただろう? 僕も君じゃなくては嫌なんだ。初めて会ったときから、ずっと君が欲しかった。18歳になるまで結婚できないなんてもどかしいな。あと1年も待たないといけないなんて……。早く君と結ばれたいよ」


そう囁くレグルスの唇が頬に触れそうなほど近づいたとき、エステルはレグルスを突き飛ばした。


「や、やめてください!」

「エステル、どうして……? ああ、式を挙げるまで純潔を守りたいんだね。そんなこと気にしなくていいのに。でも、君がそうしたいなら仕方ない。それなら……」


まなじりを下げて微笑みながら、レグルスが懐からナイフを取り出した。


「レグルス様……?」


レグルスは穏やかな笑みを浮かべたまま、エステルへと近づいてくる。

そうして、震えるエステルの髪に触れ、一房掬い取ると、ためらいなくナイフで切り落とした。


「……!」

「君の髪をもらっていくね。毎晩、この綺麗な髪に口づけてから眠るよ」


そう言って、切り落としたエステルの髪を愛おしげに握りしめながら、レグルスは帰っていった。


エステルは、震えの止まらない体を抱きしめながら、呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。


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