テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
𝕔𝕠𝕔𝕠
34
#み!るきーず
ぷりんねこ
28
comi
1,524
#M!LK
はる☻
29,738
コメント
3件
ルナに優しく「還りたかったんだね…」とジントが呟くシーンが泣けてきます😭ジントも同じ月蝕の子だからこその言葉なのかなぁと思いました。 続きも楽しみにしています!
うわあ……やっと会えたんだね、ジントがルナに。漆黒の闇の中で「…還りたかったんだね」って優しく名前を呼ぶところ、涙腺に来ました。あの孤独と冷たさを全身で感じて、それでも抱きしめて還そうとするジントの優しさが沁みます。瘴気を吸い込んで静寂が訪れる美しさも、禍々しいのに何故か神聖で。でもダイチが最後に抱きしめたまま離せない様子に、この先の代償が気になって仕方ないです。comiさんの筆致、本当に繊細で情景が目に浮かびました。続きが気になります…!
第十五章 二つの目覚め
第八話 呼ぶ声が行く先
ジントは一人、暗闇の中を歩いていた。
光もない。
音もない。
上下の感覚すら曖昧で、自分が本当に前へ進んでいるのかも分からない。
ただ。
——行かなければ。
その想いだけが、ジントの足を動かしていた。
足音は響かない。
呼吸すら、この空間では意味を持たないようだった。
どれほど歩いただろう。
永遠にも感じる暗闇の先に、ようやく一人佇む小さな影が見えた。
少女だった。
周囲の闇と見紛うほど黒い服。
そこから伸びる手足だけが、異様なほど白い。
闇よりなお深い、長い黒髪。
俯いた顔からは、表情が見えない。
けれど、ジントには分かった。
ずっと探していた存在。
夢の中で何度も見た、あの少女。
「……やっと、見つけた……」
掠れた声で呟く。
ジントはゆっくりと、少女の前へ歩み寄った。
少女が静かに顔を上げる。
僅かに微笑んでいる。
けれど。
その深い漆黒の瞳は、どうしようもなく悲しげだった。
ジントの胸が締め付けられる。
そっと手を伸ばす。
少女は逃げなかった。
指先がその手に触れる。
氷のように冷たい。
あまりにも冷たくて、ジントは思わず息を呑んだ。
その瞬間、様々な感情が濁流のように流れ込んでくる。
苦しい。
怖い。
寂しい。
痛い。
誰にも触れられず。
誰にも理解されず。
たった一人で、終わりの見えない闇を抱え続けていた、孤独。
「……ずっと……、
一人で、耐えてきたんだね……」
声が震えた。
少女の瞳が揺れる。
「……還りたかったんだね……」
その言葉に。
少女の瞳が、大きく見開かれた。
まるで初めて、自分を理解してくれる人へ出会ったように。
ジントはゆっくりと、少女を抱き締めた。
細い身体
驚くほど軽い。
壊れてしまいそうだった。
「俺が、還してあげるから……」
ジントの声はどこまでも優しかった。
「だから……」
抱きしめる腕に少し力を込める。
「一緒に……還ろう……」
そして、そっと名前を呼ぶ。
「……ルナ……」
その瞬間、ルナの瞳から涙が零れ落ちた。
一粒。
また一粒。
暗闇の中で、静かに頬を伝っていく。
そして次の瞬間。
——ドクンッ!!
意識が、一気に引き戻された。
「……っは……ぁっ……!!」
ジントはハッと目を開ける。
荒い呼吸。
焼け付くように熱い身体。
視界が揺れる。
耳へ飛び込んできたのは、激しい戦闘の音だった。
金属音。
咆哮。
爆ぜる炎。
雷鳴。
「みんな!!ジントを守れっ!!」
ハヤトの声。
「ジントォ!!しっかりしろぉ!!」
ダイチの叫び。
シュンタのリュートが、激しく掻き鳴らされる。
ジュウタロウの鋭い剣閃が、氷を纏って夜を裂く。
ジントはゆっくりと身体を起こした。
全身が熱い。
けれど不思議と、先ほどまでの苦しさは薄れていた。
「ジント!?」
ダイチが魔物を蹴り飛ばしながらこちらへ駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
ジントは静かに頷く。
よろめきながら立ち上がる。
呼吸を整える。
そしてゆっくりと、再び目を閉じた。
瞼の裏。
そこには、柔らかく笑うルナの姿があった。
悲しみではなく。
孤独でもなく。
どこか安堵したような微笑み。
「……ルナ……」
ジントは小さく呟く。
「大丈夫。俺がいるから……」
次の瞬間、空気が変わった。
——ゴォォォッ!!
周囲の瘴気が、一斉にジントへ引き寄せられる。
「っ!?」
ハヤト達が振り返る。
先ほどとは、比べ物にならない。
圧倒的な速度。
圧倒的な量。
まるで森全体が、ジントへ吸い込まれていくようだった。
魔物達が動きを止める。
赤い瞳が揺れる。
そして次の瞬間。
ボロボロと、その身体が崩れ落ちた。
肉体を維持出来なくなった魔物達が、一瞬で瘴気へ還っていく。
黒い霧となったそれらは、全てジントへ向かって流れ込んだ。
轟々と渦巻く瘴気。
ジントの周囲を、黒い闇が覆い尽くす。
けれどその中心に立つジントの表情は、驚くほど穏やかだった。
まるで帰るべき場所へ辿り着いたものを、優しく迎え入れているように。
月光が、黒髪を銀色に照らす。
白い肌。
閉じられた瞳。
静かな微笑み。
その姿は、人ではない何かのようにも見えた。
そしてどこまでも美しかった。
4人は、ただ呆然とその姿を見つめていた。
風が吹く。
黒い瘴気が、月光の中で静かに舞い上がった。
森に静寂が訪れた。
風の音すら聞こえない。
先ほどまで響いていた咆哮も、剣戟も、瘴気の唸りも、まるで最初から存在しなかったかのように消えている。
月明かりだけが青白く森を照らしていた。
その中心。
ジントが、ふっと力を抜くように目を開けた。
黒い瘴気は、もうどこにもない。
ただ月光が落とす影だけが、その足元に伸びていた。
けれど、誰もすぐには動けなかった。
ただ呆然と、そこへ立つジントを見つめている。
「……ジント……?」
最初に動いたのはダイチだった。
恐る恐る歩み寄る。
ジントはゆっくり顔を上げ、ダイチを見る。
そして、優しく微笑んだ。
いつもの笑顔。
それを見た瞬間、ダイチの胸の奥に張り詰めていたものが少しだけ緩む。
「お前……さっきの……」
言葉にならない。
ジントは静かに言った。
「……大丈夫……」
だが次の瞬間。
ジントの身体がぐらりと揺れた。
「ジント!!」
ダイチが咄嗟に飛び出し、崩れ落ちる身体を受け止める。
ジントはそのまま、静かに意識を失った。
「ジント!」
ハヤト達も駆け寄る。
ジュウタロウが脈を確認し、小さく息を吐いた。
「……眠っているだけのようだ」
その言葉に、全員ようやく少し肩の力を抜く。
「とりあえず寝かせよう」
ハヤトの声で、シュンタとジュウタロウが急いで寝床を整え始めた。
その間もダイチは、ジントを抱きかかえ、その顔を見つめていた。
まるで、離せば消えてしまうもののように。
やがて準備が整う。
ダイチはそっと、ジントを寝かせた。
穏やかな寝顔。
規則正しい寝息。
先ほどまで、あれほど膨大な闇を受け入れていたとは思えないほど、
安らかな表情だった。
4人はようやく、深く息を吐いた。
気付けば辺りを覆っていた瘴気は、完全に消えていた。
空気は驚くほど澄んでいる。
結界石など必要ないと思えるほど、
森全体が静かな安堵に包まれていた。
誰もすぐには口を開けない。
やがてハヤトがぽつりと呟く。
「あれが……月蝕の子か……」
ミルハで読んだ、レオルの手記。
闇を受け入れ、月へ還す者。
その意味を、ようやく理解した気がした。
ジュウタロウも静かに言う。
「……まるで、人ではない何かのようだった……」
その声に恐怖はない。
ただ、深い畏敬だけがあった。
シュンタは不安そうに目を伏せる。
「……ジンちゃん、このままどうなってまうんやろ……」
誰も答えられなかった。
ダイチは、ただジントの寝顔を見つめている。
青い瞳の奥には、安心と、恐怖と、強い不安が複雑に入り混じっていた。
やがて連日の激戦の疲れが、一人、また一人とその意識を奪っていく。
だが、その眠りを妨げるものは、もう何も存在しなかった。