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第十五章 二つの目覚め
第九私 光の中の想い
小鳥の囀り。
風が木々を揺らす音。
湿った草の匂い。
固い土の感触。
ダイチはゆっくりと目を開けた。
まだ日が昇る前。
薄青い朝靄が、静かな森を包んでいる。
目の前には、穏やかな顔で眠るジントの横顔。
掛けられた毛布が規則正しく上下していた。
ダイチはしばらくその寝顔をじっと見つめる。
昨夜の出来事が、まるで夢か幻のようだった。
月光の中。
黒い瘴気を受け入れながら、穏やかに微笑んでいる姿。
「……あれはホンマに、……ジントなんやろか……」
小さく呟く。
自分の知らない力。
自分の知らない顔。
そして。
このまま月の一族の隠れ里へ行って、白霧山へ辿り着いたら——
その先で、ジントはどうなってしまうのか。
考えたくもない想像が、頭を離れない。
ダイチはゆっくり身体を起こすと、そっとジントの頬へ触れた。
まだ少し冷たい肌。
けれど、ちゃんと温もりがある。
「……どこにも……行かんでくれ……」
掠れた呟きは、風の音に溶けて消えた。
やがて、日が昇り始める。
木々の隙間から差し込む朝日が、5人の顔を柔らかく照らした。
ハヤトとジュウタロウがゆっくり身体を起こす。
「……すっかり眠り込んでしまったな……」
ハヤトが辺りを見回し、そしてダイチへ視線を向けた。
「ダイチ、先に起きてたのか」
膝を抱えて座っていたダイチが、小さく頷く。
「うん……おはよ……」
いつもより、明らかに元気のない返事。
ジュウタロウが静かに聞く。
「ちゃんと寝たのか?」
「うん……さっき起きたとこ……」
その様子に、ハヤトとジュウタロウは顔を見合わせた。
ハヤトは立ち上がり、ダイチの隣へ腰を下ろす。
そして、眠るジントを見つめながら穏やかに言った。
「……ジントは幸せだよなぁ。
こんなに想ってくれる相手がいるなんて」
その言葉に、ダイチは視線を落とした。
「でも……なんか俺だけ……
いつも一方的に嫉妬したり、縛り付けてるみたいな気もして……」
拳を握る。
「ホンマに……幸せなんかなぁ……」
ジュウタロウが淡々と答える。
「お前達二人を見ていたら、どこからどう見ても、お互いに想い合っているだろ」
「……えっ?」
ダイチが顔を上げる。
ハヤトは思わず吹き出した。
「ハハッ、本当に気付いてないのか?」
ダイチは目を逸らす。
みるみる耳まで赤くなっていく。
「もう時間の問題だな」
ジュウタロウは寝床を片付けながら、平然と言った。
「え……でもそんなん、わからんやん……」
弱気な声。
その瞬間。
「あーーーもうっっ!!じれったいわぁ!!」
シュンタが勢いよく飛び起きた。
「うわっ!?」
ダイチが飛び上がる。
「お前いつから起きとったん!?」
「結構前からや!!」
シュンタが髪をぐしゃぐしゃ掻きながら叫ぶ。
「ホンマにいい加減にせぇやぁ!!
ウジウジして男らしくないで!!」
「え!?なんでキレてるん!?」
「そらキレるやろ!!あんなんお互い分かっとるはずなのに、知らんふりして!!」
「こっちの方がもどかしくてしゃーないねん!!」
ダイチは完全に言葉を失った。
ハヤトとジュウタロウが、揃って静かに頷く。
シュンタは大きくため息を吐き、ニヤリと笑った。
「なぁダイちゃん」
「……ちゃんと言い?」
赤い瞳が、悪戯っぽく細められる。
「やないと……」
その瞳が、冗談ではないと鋭く光る。
「俺が、奪うからな?」
「っ………!!」
ダイチは息を呑み、唇を噛む。
そして俯いていた顔を上げ、ゆっくり立ち上がった。
青い瞳の奥へ、強い光が宿る。
「……わかった……」
拳を握り締める。
「俺……」
「ちゃんとジントに伝えるわ……」
その言葉に、3人は顔を見合わせた。
そしてやれやれというように微笑む。
その時だった。
「……う……ん……」
小さな声。
全員が振り返る。
ジントが身じろぎをし、ゆっくり瞼を開いた。
「ジント……!」
ダイチが真っ先に駆け寄る。
至近距離で顔を覗き込む。
ジントはぼんやりと目を瞬かせ、ダイチを見上げた。
「……ダイ、チ……?」
まだ少し眠そうな声。
ダイチは優しく額へ触れる。
「大丈夫か?」
ジントは目を細め、小さく微笑んだ。
「……うん……」
その返事に、ダイチはようやく表情を緩める。
ハヤトが水筒を持って近付いてきた。
ダイチに支えられながら身体を起こし、ジントはそれを受け取る。
ゆっくり喉へ流し込む。
「……はぁ〜……」
大きく息を吐いた。
少しだけ顔色も戻っている。
だがハヤトは真剣な表情だった。
「ジント……昨日のことだけど……」
その声に、空気が静まる。
「一度倒れて……その後目を覚ました時のこと、覚えてるか……?」
ジントは少し目を伏せた。
昨夜を思い返すように。
そして、静かに話し始める。
「あの時……夢で会ったんだ」
「……ルナに……」
4人が息を呑む。
「初めてルナに触れて……名前を呼んで……」
ジントの黒い瞳が、少し揺れた。
「そしたらルナの気持ちが流れ込んできて……」
「今度こそ、ちゃんと還さなきゃって思ったら、目が覚めた……」
風が静かに吹き抜ける。
「それから瘴気がどんどん流れ込んできても、全然辛くなくて……」
「むしろ、もっともっとって、還してあげたくて……」
そこで、少し困ったように笑う。
「……でもゴメン……」
「結局こうしてまた倒れて、迷惑かけた……」
「いや」
ハヤトが即座に言った。
その金色の瞳が、真っ直ぐジントを見据える。
「これはジントにしか出来ないことなんだ。俺達には代わることは出来ない」
力強い声。
「だから、迷惑だとか考えるな」
ジントは少し驚いたように目を瞬かせ、そして静かに頷いた。
ジュウタロウが口を開く。
「確か白霧山でも、夢を見たと言っていたな」
銀色の瞳が静かにジントを見る。
「その夢で、ジントは月蝕の子と……
ルナと共鳴しているのかもな」
シュンタもぽつりと呟く。
「ジンちゃんとルナは……互いに救いになっとるんやろな……」
その言葉に、ジントは小さく目を伏せた。
ダイチはまるで離したくないかのように、支える腕へそっと力を込める。
朝の光が5人を優しく照らしていた。
それぞれの言葉にならない想いを包み込むように。
けれど同時に、冷たい風が森を吹き抜けた。
明日の夜 ついに月は満ちる。
時は止まらない。
運命の歯車は、5人の想いを嘲笑うかのように、無情に回り続けている。
柔太郎/大森元貴/@nrkr_
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はる☻
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コメント
1件
いやあ、もう朝から胸が熱くなりましたよ……! ダイチの「どこにも行かんでくれ」って掠れ声、めちゃくちゃ刺さりました。んでシュンタの「奪うからな」の圧がすごくて、一気に空気変わったのも良かった。ダイチがようやく「ちゃんと伝える」と決意した瞬間、こっちまで拳握りしめました。そしてジントが目覚めて「ルナの気持ちが流れ込んできた」ってシーン、瘴気と共鳴の設定が綺麗に生きてるなと。ただ、明日月が満ちるって運命の刻みが、この温かい朝の空気と対比になってて、読んでて切なくもなりました。続き、本当に気になります……!