コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
宮殿の裏方には、後宮という、別の力がある。
王といえども、逆らうことはできず、ジオンはミヒを側に上げることができなかった。
宮の中では、血がすべて――、たとえ、側室であろうとも、自分の血筋を語れない女は一人もいない。
ミヒは、当然除外される。ならばここに置き、くだらないあつれきから守ってやろう。
ジオンはそう思い、ミヒを心底いつくしんでいた。
しかし、横たわる彼女の機嫌はすこぶる悪い。
自分は、宮に登れない女なのだと怒っているのではなく、ジオンが帰ってしまうと、一人残されると、すねているのだ。
毎度の事だった。
だが。
小さな背が、発するいらだちは、いつもと異なって見えた。
来月、ジオンは、王として、正妃を迎える。
まだ、あどけない、少女と言うべきミヒにとって、この現実は受け入れがたい事だろう。
ジオンにも、痛いほど、わかっている。
しかし、いったい、自分に何ができようか。
若き王は、国のために、進まなければならなかった――。
「機嫌を直してくれないか?宮殿へは戻らないから」
「……戻らないの?」
「ああ、しばらくここにいるつもりだ」
「宮は?政《まつりごと》は?」
「お前が心配することではない。私がいるのは迷惑か?」
言った時には、ジオンの指先はミヒの懐の中にあった。
がっしりとした腕の中には、明かりに照らされるのが恥ずかしいと、顔を背ける華奢な少女がいる。
――至福の時は、蝋燭の明かりに守られ流れて行く。
朝の光が加わるころには、二人は重なりあって、まどろんでいた――。