寝室へ入ると、理紗子は唯一持って来たワンピースをハンガーから外す。
このワンピースは、一人旅では着る機会がないかもと思いつつなんとなく持ってきた。
着る機会もないのになぜ持って来たのか?
それは理紗子にほんの少し憧れがあったのかもしれない。
リゾート地へ一人旅に行き素敵な男性と出逢う。
二人は徐々に親しくなり次第に心を通わせ、そして最高の夜を過ごす。
そんな、自分が書く小説のような展開を望んでいたのかもしれない。
せめてそのくらいの夢は見させてほしい。例え妄想で終わったとしてもだ。
しかしその妄想が半分現実になっているから不思議だ。
まあ『偽装恋人』としてではあるが、このワンピースを着て素敵なレストランに行けるのだ。
それも絵に描いたような『スパダリ男』とだ。
理紗子はこの貴重な体験も、逐一胸に刻んでおかなければと思った。
それは後々小説を書く際の大きなヒントになるだろう。
理紗子が持って来たワンピースは、オフホワイト地に南国調の黒色の花が大胆に描かれたリゾート感に溢れるものだった。
デザインはAラインでノースリーブ、首回りは深く空いていた。
裾まで繋がるドレープが歩く度に可憐に揺れとてもエレガントだ。
実は理紗子はこのワンピースを一目惚れして買った。それも初めて出版した書籍の印税でだ。
だから思い入れのある服だ。
しかし買ってからは今まで一度も着る機会がなかった。
いつか南の島に行ったら着ようと思い大切にしまっていた。
だから今夜着る機会があって嬉しい。
理紗子は早速ワンピースに着替えてみた。
島へ来てすっかり日焼けした理紗子の身体にとてもよく似合っていた。
そこへ今日健吾に買ってもらった黒蝶真珠のペンダントとピアスを着けてみる。
上品な光を放つ真珠はワンピースとの相性もばっちりだった。
鏡を見て気分を良くした理紗子は、髪を緩くアップにする事にした。
アップにするのは久しぶりだ。
髪を上げた事により、さらにエキゾチックな雰囲気が増していい感じだ。
それから理紗子はメイクを始める事にする。
思えば健吾の前できっちりメイクをしていた事は一度もなかった。
いつもカジュアルな服装にナチュラルメイクばかり。
今夜くらいはちゃんとメイクをして見返してやろう!
ん? 見返す? なぜそんな事を思ったのだろうか?
その時理紗子の頭には、先程廊下ですれ違った麗奈の完璧な出で立ちが思い浮かんでいた。
女性としての魅力を余すことなくすべてさらけ出したような美しさ。
男性を一瞬で虜にしてしまうような彼女の色気は、同性から見てもため息が出るほどだった。
理紗子はなぜか麗奈に負けたくないと思っていた。
(よーし! 絶対に負けないから)
理紗子は気合を入れると真剣にメイクに取り掛かった。
リビングではシャワーを終えた健吾が着替えを済ませて待機していた。
健吾は白の半そでTシャツにライトグレーの細身のストレッチパンツ、それにネイビーのテーラードジャケットを羽織っている。
ジャケットの胸ポケットにはサングラスを差していた。
髪を後ろへ撫でつけたヘアスタイルは、まるでメンズファッション誌のモデルのようだ。
身体からはいつものウッディにセクシーさをほんのりとプラスしたような香りが漂っている。
今夜は島で過ごす最後の夜という事もあり、健吾もかなり気合を入れていた。
時計が午後6時20分を指した時、理紗子が寝室から出て来た。
「…………」
その姿を見て健吾は思わず息を呑んだ。
そこにはいつもと違う理紗子が立っていた。
女性らしく優雅で華やかな雰囲気、そこはかとなく漂う妖艶さ。
そこにいたのは、健吾が今まで見た事のない理紗子の姿だった。
今夜の理紗子はきちんとメイクで今までの印象とはずいぶん違った。
元々大きかった瞳は、メイクにより一層際立ち強い目力を放ちながら艶っぽい視線を投げかける。
一度目を合わせてしまったら吸い込まれそうな勢いだ。
日に焼けた健康的な肌は、今夜は特にきめ細やか見える。
その滑らかな肌に思わず手を伸ばして触れたくなるような……そんな美しさだった。
理紗子が着ているワンピースもとてもエレガントだった。
エキゾチックな柄のワンピースは、まさに南国の夜にぴったりで、
オフホワイトの色味が焼けた理紗子の肌をいっそう引き立てている。
華奢な肩のラインはむき出しで、髪をアップにしているため細いうなじも露わになり妙に色っぽい。
広く開いた胸元と耳には、健吾がプレゼントした黒蝶真珠が輝いていた。
(なんて美しいんだ!)
「お待たせしました」
理紗子はそう言ってニッコリと笑った。
その瞬間、理紗子に見とれていた健吾はハッと我に返る。
「なんか今夜はとっても素敵だな…」
「私だって本気を出せばこのくらいは……ね」
理紗子はそう言って微笑む。
一方理紗子も健吾の姿を見てドッキリしていた。
(うわっ、まるで王子様みたい! 白馬を連れて来たらバッチリね)
心の中でそう呟く。
細身のパンツは健吾の長い足をさらに長く見せ、Tシャツにカジュアルなジャケットがほどよく抜け感を出している。
真っ白なTシャツから覗く日に焼けた喉元が、男らしさを魅せつけていた。
そして後ろへ撫でつけたヘアスタイルが新鮮で男の色気がムンムンとしていた。
この格好で東京を歩いたら、絶対にモデルだと間違えられるだろう。
(スパダリ男マジやばっ!)
理紗子は再び心の中でそう呟いた。
「では、お姫様、そろそろ参りましょうか?」
健吾はそう言ってうやうやしく左肘を曲げると理紗子に差し出した。
「ええ王子様、よろしくてよ!」
理紗子はフフッと笑いながら健吾の左腕に手を添えた。
それから二人は部屋を後にした。
コメント
3件
島での最後の晩餐🏝️🌃 いつもよりドレスアップした お互いの姿に 見惚れ合う二人....😍💖 どうか誰にも邪魔されず 素敵な夜をすごせますように🙏🌠
惚れ直す2人♡(っ*’-’)’ᵕ’*c)♡ 理紗子ちゃんのあの女豹蛇女への対抗心スイッチ(*・ω・)ノ凸ポチッがウケる〜😆釣りの時もスイッチ入ってたよね〜😂 プリンス健吾&プリンセス理紗子🩷🩵 さぁ〜ステキなディナー🍽️🥂へ * ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚*
理沙ちゃんは女としても人としても麗奈なんかよりずーっと上だよ⤴️⤴️ 上っ面の美だけを求める麗奈のパトロンのような奴もいるけど、少なくとも健吾はそんな奴じゃない。 それは理沙ちゃんもご存知の通りで‼️ ただ麗奈が健吾を見つめるのは防ぎようがないから健吾はしっかりと理沙ちゃんだけ❣️❣️見つめてて💏💞🌷