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トヴェッテ王室御用達のレストランにて、ネレディ、ナディ(&スゥ)、トヴェッタリア27世というメンバーと夕食を共にした後、俺とテオは宿屋へ戻ってきた。
贅を尽くした美術館のような高級部屋。
弾力も凄いふかふかソファーに腰かけつつ、テオがホッとしたようにもらす。
「うん……さすがに王様相手となると、テオも緊張するんだな」
テオの言葉にうなずきつつ、俺は先程の会食の様子を思い出す。
以前同じレストランで昼食をとった際、テオはリラックスした様子でネレディやナディらと楽しそうに話していた。
だが王様らを加えた先程の食事においては、終始珍しくテオの口数が非常に少なく、表情もいつもより硬かったような気がしたのだ。
「あのなー、相手は大国トヴェッテの現国王・トヴェッタリア27世様だぜ? ただの冒険者でしかない俺1人ヒョイッと消すぐらい、国王様にとっちゃ朝飯前だろうしさ……そりゃ緊張もするって!」
「そういや昔、ジェラルドさんって王様に処刑されかけたんだっけ?」
「お、タクトよく知ってるなー! あれは見せしめって理由から公開処刑で予定が組まれてたし、結局は未遂で終わったけど……」
テオはそこまで言ったところで座り直し、小声で俺に言う。
「マジっぽい」
「う~ん、なんかさっき会った感じからすると、信じられないな……」
先程会った国王は気さくでにこやかで、テオが話す噂のような残虐な行為を行っているなんて、俺には到底思えなかった。
苦笑いしてテオが言う。
「ああいうタイプの方が、案外裏があったりすんだよー。それに“お人よしの良い人”が、闇だらけのトヴェッテ王国をまとめられるわけないじゃん!」
ゲームでも、テオに聞いた話でも、トヴェッテ王国は一見華やかに見えるが、実は『ブラックアンカー』という組織に象徴される深い闇がある。
それにまつわる色々を頭に浮かべつつ、俺は「そうかもな」と小さく答えた。
「にしてもさー。何だかんだ言っても、やっぱネレディって“あの国王様の娘”なんだな……まんまと一杯食わされたぜっ!」
溜息をつきつつテオが言った言葉の意味が分からず、俺は首をかしげる。
「え、どの辺が?」
「色々あるんだけどさ……1番は国王様があの場に来るって、事前に俺達に言わなかったことかな。まぁ普通の人間の感覚なら、国王様と同席で食事なんて事態になったら平常心じゃ居られないから、交渉じゃ圧倒的にトヴェッテ側が有利に決まってんじゃん……ギリギリまで情報を隠しておくとか、交渉術の常套手段みたいなもんだよな」
「でももしかしたら、国王様も来るって決まったのは直前だったかもしれないし――」
「普通に考えて大国の国王様が、いきなりふらっと街中に来れるわけないからっ! 俺達に伝えられるタイミングなんていくらでもあったはずで、わざと情報を隠してたってほうがしっくりくるぜ」
テオの言う事は一理あるだろう。
だけど何だか信じたくないと思う俺は、豪華な部屋を見渡しながら言う。
「ネレディさん、親切だと思うけどな……ここの宿もさっきの食事も、全部代金はネレディさん持ちだし――」
「そりゃタクト、つまり『勇者』をもてなして取り込むことに、それだけのメリットがあると踏んでるからじゃん!」
「うっ、その考えに戻ってくるのか……」
俺は頭を抱える。
「……生まれてこの方、平凡な一般人として暮らしてきた俺には、もう何が何だか分かんねぇよ」
「俺だって分かんねー事だらけだよっ! 特にネレディ……確かに今は立場とか何とか色々あるだろうけどさ……あいつ、昔はもっと真っすぐだったんだけどなー」
「ん?」
ここでふと、テオの言葉が気になった。
そういえば初めてトヴェッテ冒険者ギルドに行った時、テオはネレディやナディとも既に旧知の仲っぽい感じだったなと思い出し、たずねてみる。
「なぁテオ、ネレディさんとはいつ知り合ったんだ? 『昔は』なんて言うからには、結構前からの知り合いなんだろ?」
「ネレディが冒険者を始めた直後から、しばらく一緒にパーティ組んでたんだよ」
「ネレディさんとも?! ダガルガさんやウォードさんだけじゃなくて?」
「うん! といってもネレディがうちにいたのは駆け出しの1年ぐらいだけどなー」
「なんでまた、王女様と一緒に旅するなんて事態になったんだ?」
「俺達だって最初は知らなかったんだよ!」
テオによれば、各地を旅していたダガルガ・ウォード・テオらのパーティが、ある街の冒険者ギルドに寄った際、1人の女の子が「仲間に加えてください!」と頼み込んできた。
それが15歳のネレディだったのだ。
高価な服に上品な言動と“いかにも良家のお嬢様”という雰囲気を醸し出し、粗野な冒険者だらけのギルドと不釣り合いな女の子。
明らかに訳あり風であることから、パーティリーダーのウォードは断ろうとした。
だが、自らの素性を決して語りたがらない女の子から何かを感じ取ったらしいダガルガが「俺達が断りでもしたら、この娘が危険な目に合うかもしれんだろがッ!!」などとごねまくった。
ネレディが槍をかなり使え即戦力になると分かったこと、また「期間限定での加入」などと言う条件をつけたことから、ウォードらも渋々加入を認めたのだ。
「まぁ俺はパーティで1番年下だし、俺自身もダガルガがごねてくれたおかげで加入できた身だから、ネレディの加入うんぬんについては何も言えなかったんだけど……最初ネレディはどっかお金持ちの家から家出してきたお嬢様かな、ぐらいに思ってたんだ。でもまさかトヴェッテの王女様とかさ……聞いた時は心臓が止まったぜー」
加入からしばらくして、いきなりネレディが「1週間程、里帰りしてきます」と単身でパーティを抜けたらしい。
元々戦闘力が高かったネレディは、色んな意味で経験不足ではあるものの、既にパーティの重要な戦力として他のメンバーが認める存在となっていた。
また育ちが良いからと傲り高ぶることも無く、自分は駆け出しだから……と謙虚な姿勢であったため、そういった意味でも仲間として好感を持っていたウォード達は、ネレディの帰還を待つことに決めたのだ。
約束通りネレディは、きっかり1週間でパーティの元へと帰ってきた。
そしてその際、自分の生い立ちや、里帰りした事情――ネレディが行方不明になったためにトヴェッテ王宮が騒ぎとなったことから、それを収めるために里帰りし、また国王達に自分が冒険者として活動するのを認めさせた――について語ったのだ。
ウォードもテオも、他の面々も驚いた。
ただダガルガだけはいつも通り「そうかそうか」と笑顔でうなずいていたのだが。
身の上話を終えたネレディは「改めて、仲間に加えてください」と頭を下げた。
ウォードらは迷ったものの、最終的にはうなずいたのだそうだ。
「……で、1年ぐらい一緒に旅してから、ネレディは独立したんだよ。その時はまだまだ無名だったんだけど、あっと言う間に超有名冒険者になって、『紫の斧槍姫《ハルバードプリンセス》』なんて二つ名までついて……今じゃトヴェッテ冒険者ギルドのギルドマスターだもんなー」
「ナディと知り合ったのは?」
「ネレディがトヴェッテに帰ったって風の噂で聞いてから、近くに寄った時には時々顔出してたんだよ。そのうちの何度かはナディとも一緒にごはん食べたんだよね」
「なるほどな……」
そういう繋がりがあったのかと大体納得した俺は、この際だから聞いておこうと続けて質問していく。
「ちなみにさ、テオ達のパーティには、あと誰が居たんだ?」
「俺が入った時には、ウォードとダガルガと、あとはシュミルとムトトで、全員男。5年前に解散するまでの固定メンバーが以上!」
「シュミルさんってもしかして、テオの武器の製作者のシュミルさん?」
「そう! 今はエルフの隠れ里に住んで、鍛冶屋やってるよー」
テオの愛用武器である『シュミルのミスリルウィップ』などは、実用性と美しさを兼ね備えた、非常に出来の良い品だった。
あれを作れるぐらいだから、シュミルはおそらく腕が良い鍛冶屋に違いない。
「じゃあムトトさんは?」
「ニルルク村に住んでるはず。俺の『ニルルクのアルティマテント』の製作手伝ってくれたのがムトトなんだよねー。で、固定メンバー以外だと……俺が居る間に、期間限定で加入してたのはネレディだけかな」
「うん、6人だよ!」
ゲームでは、パーティメンバーは5人までという制約があった。
なんで6人で組めてるんだ? あり得ないだろ。
「それおかしくないか?」
「なんで? この間フルーユ湖に行った時も6人だったじゃん」
「あ、そういえば……」
先日の遠征時、一時的に俺・テオ・ネレディ・ナディ・ジェラルド・イザベルと6人構成パーティとなっていたが、問題なく行動できていた。
ゲームにおいて仲間にできるパーティメンバーは、勇者を除き4名まで。
テオで1枠埋まる事を考えれば、残りは3名。
ただ俺自身が極力目立ちたくないこと。中途半端にネレディたちを加えたがために「王様からの勧誘」という面倒な事態に巻き込まれかけたことなどを踏まえると……しばらくはテオと2人でこっそり行動した方がいいのかもしれないな。