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「アルベルト、泣いてたな…。」
真夏の朝、バサバサッと音を立てて小さな小鳥が羽をこぼしながら人間の姿に代わっていく。
取りに魔法で姿を変えていたルナはほろほろと消えていく自分の羽を見ながらひとり罪悪感にかられていた。
アルベルトは何も悪くない、でも…王子と出会ってしまった以上あのままいることは非常にまずい。
…ユリアが魔法で二人の記憶を消した以上、私は計画を実行するしかないんだ。
サイラス王子は召喚士の力も扱える優秀な王子だ。召喚士の知識を持つ彼の目をかいくぐり魔王の軍神を守るには、彼の恋心を利用するしかない。
ルナは下を落ち込んで重みのある罪悪感に言い聞かせた。アルベルトには申し訳ない気持ちで一杯だが、こうなった以上はもうどうすることもできない。できることはただ彼の安全と幸せな未来を願うのみだ。
「ルナ、ここにいたのか。」
突然、サイラス王子の声が後ろで聞こえた。
ルナはすぐに手に生えた羽根を魔法で消し、彼の元へ小走りする。
「サイラス王子、もう起きられたのですね。二度寝していてもよかったのですよ?」
「馬鹿を言うな、朝起きたら隣にお前がいたんだぞ。二度寝するあほがいるか。」
サイラスはむっと唇を尖らせると、私の体をそっと引き寄せた。
「酔っ払っていたとは言え俺の気持ちは本気だ。ルナ、お前が好きだ。」
「ふふ、もう昨日の夜散々聞きましたよ。ありがとうございます…王子。」
私の返事にサイラス王子は優しく私の髪を撫でた。
ユリアの魔法とジャックの誤魔化しのおかげで、サイラス王子は「自分は昨日の夜、酔っ払った勢いでルナのいるテントに行き、告白し、そのまま眠ってしまった」ことになっている。
「くそ、全く思い出せない。俺は…どうやってお前に告白したんだ?」
「ふふ、どう行ったんでしょうねぇ?私も忘れてしまいました。」
「冗談言うな、俺は今猛烈に自分を情けなく思ってるんだぞ。」
…それを良いことにこっちは嘘をついてるんだよなぁ。
私はアルベルトとは違う罪悪感を感じながら彼の両腕に触れた。
「……それは熱烈でしたよ、とっても。」
ユリア仕込みのこのセリフを背伸びして、彼にもたれかかるようにして耳元で艶っぽく囁いてみる。すると彼はびくっと体を震わせ、真っ赤な顔をして私から離れた。
「ッ…!あまり俺をからかうな!もう行くぞ!」
王子は背中を見せ、そのままつかつかと早足で歩き始めた。しかし、ユリア仕込みのセリフがかなり効いたのか近くにあった石につまずきこけそうになる。すると、彼はそれを隠すようにさらに早足でジャック達のいる方へとかけていった。
……ふぅ、ひとりになれた。
「私…王子の奥さんになるのかぁ。」
サイラス王子の方は嫌いではない、ただ恋愛的に彼をみることはできない。彼は優秀な召喚師の技術と政治に長けた知性を持つ国の宝というべき人だ。そのため、魔王討伐の任務を任されたしもべの私は、彼に対して尊敬と忠誠の感情しか持っていなかった。
……なんだか、かわいそうだな。
そう思いながら私はジャックのいる方へとゆっくり歩き出した。
「ルナめ…王子である俺のことをからかうとは、身分知らずなやつだ
…がしかし、かわいい…くそ!許してしまう俺はなんて甘いんだ!」
「サイラス王子、完全にルナにメロメロになってるな。ルナは罪悪感でいっぱいだろうな…俺達とアルベルトを守るためとはいえ、申し訳ない気持ちになるぜ。」
「そうね…なんだか可哀想だわ。はぁ…
罪悪感で、変なことでもしないと良いのだけど」
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