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脇役Aの葛藤

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脇役Aの葛藤

2 - 通り魔

♥

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2022年08月13日

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夏の始まり、カウントダウンの始まり。

休みは好きだが、休みの終わりは嫌い。

いつか来る終りに怯えながら、じっとりとした感触に身を包み、汗を疎ましく滲ませ、日光に肌を焼かれながら、私は見慣れた帰路についていた。




呆然と歩きながら、陰鬱な思考回路に毎度呑まれる私は今日も呑気で元気だ。

今日もやってしまった。トイレに逃げる癖…。キャッキャッと会話する空間で、私はこの人たちに監視されているような…1人でいるところを笑われているような…煙たがられているような…。そんな被害妄想に身体がそわそわと落ち着かず。だから私は移動したのだ。なんて淋しい人間だことこの上ない。

数分前の自身の行動を振り返り、呆れて目を細め、視線をゆっくりと横に流す。

自虐的な笑みを薄く浮かべた。

しかし、今の一番の問題はそこではないぞ、私よ。”相澤葉菜”よ。

何重にも綺麗に折りたたまれた手の中にある紙…。

32点の解答用紙。

放課後に突然、先生に呼ばれたもんだから驚いた。再試なんてものはしなくてもいいらしいのだと。私の性格は傍から見ると静かで真面目と評価されている。つまりは、賢そうに見えると。

一方では、明るいや、何も考えてなさそうといったものもある。人によって私がいる。

種類は全然違えど私にとってはみんな同じ台詞だった。友達がいないってこういうことをいうのだなって。

そうだ。私達は友達じゃないからさ、そんな言葉を簡単に吐けるんだ。君らが適当に言葉を綴るごとに私はいちいち心を痛めた。プレッシャーになった。それは私が喜ぶ言葉じゃなくて、自分に称賛を与えてほしいお前のただの自己満足。目の前の私じゃなくて、目の奥に投影された自分自身と接しているのだ。私のことなぞ見ていない。私というものは、お前を満足させるためのただの鏡扱いだ。軽くも見下しているからできるその行動に、その対応に、私はえへへと笑みを浮かべ仕方がないと誤魔化した。

“いや、違う。それをしているのは私もか。”


なぜ点数を隠す。

ばれたくない。だから隠す。

まったく情けない。

テスト直前の追込み徹夜からの開放。

心の底から青空を受け入れることのできる気持ちのゆとりを手に入れた。

私は今に満足してしまっていた。

この安らぎが延々に続けばいいのに。




いつまでもこのような自堕落な生活を続ける私に遂に罰が下ったようです。

点数を見た母は、堪忍袋の緒が切れて、

ついに私を殴ったのです。

そう、全ては私のせいなのです。

それからは日常のように私を殴ったのです…。

母にとっての私はそんなものでした。テストから開放された後のあの平和な気持ちがどんなものだったか、今は思い出せません。自分の持つ気持ちとは一体何なのか。何が嫌なのか。何が悲しいのか。そういえばなんだかよくわからない。

だって全部自業自得だもんね。

そんな呑気なこと考えちゃいけない。

誰も私のことなんて見ていない。

まあ、こんな自分見るわけないか。

努力する人間こそが、みなから見てもらえるのサ。

同情を買う背景を持つ人間こそが、みなから見てもらえるのサ。

横を通ると母はぎろりと私を睨んだ。同じ空間に長く座ると大きくため息をつきイライラとしだした。私が二階へ逃げると、気持ち悪いわ、と一階から声がする。聞こえてるのに。聞こえてもいいと思ってるからなんだ。

それは言っちゃいけないよ。まま。

そんな思いをぽつりと心に思い浮かべた瞬間、糸が切れたように頭の中がぐしゃぐしゃになった。二階の部屋の隅で身体を丸め私は泣いてしまった。意図してないのに嗚咽が大きくしゃくりあげるように漏れる。母の行動や言動よって唐突にこの症状が出てきては、何もなかったように引っ込むの繰り返しと、死んでいく私。


私は今日も笑顔を作る。仕方がないよ。と背中をさすって慰めるのは、やっぱり私だった。

私しかいなかった。

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コメント

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ユーザー
ユーザー

執筆お疲れ様です!!!!! 暗いのですが、それを感じさせない軽やかな喋りが、この世界観を更に歪に仕立てあげています…またその喋りから、常に自分自身を自嘲しているように感じました💭 「自虐的な笑みを薄く浮かべた」で、いきなり頭に彼女の姿が思い浮かんできて、体が震えました。数えだしたらキリがありませんが、「私の背中を擦るのは…」の表現が好きすぎます🥰✨

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