深夜4時。
鈴虫が静かに心地よく鳴いている
窓から漏れ出る月光を眺めながら、冷房の聞いた寝室を出て、ぬるい空間に私は降りた。
上等にも偏見のあぶらにまみれた自分の思考が嫌いだった。
「嫌い嫌い嫌い嫌い…もう嫌だあ…っう…うう…」
段差の大きめな木製の階段をギシリと踏みしめ、涙をぽたぽたと落としていく。
「あああ…全部私が悪い悪い悪い悪い悪い…」
「自業自得自業自得自業自得自業自得……」
せめて自分が調子に乗らないように、私は私を押し殺した。
せめて私が私を一番嫌うから、誰も私を攻めないで。私を許して許して許して…。
そんなことばかり。
同情をかれば私は仕方がないと許される。
失敗すれば見下される…。
見下されるというのは、どうしてこれほどまでに自尊心を傷つけられるのか。
なんて、過去の記憶と空想未来に意識をよじらせ悲劇のヒロインぶる私は、自分を憐れみ悲しんだ。
馬鹿だな。
あいにく私は主人公じゃない。私は自分をあたかも主人公のように思い込んで、一人で気持ち良くなってるだけだ。すべての悲しみが自分から湧き上がっているだなんて、自意識過剰も大概にしろ。
しかし、辛いと感じている本人は私である。
見事に負の感情の渦に呑み込まれているのは私である。
自分を叱咤してみるが誰も私に気づいてくれない。
だって私は脇役みたいなもんだから。
ただただ馬鹿をしていると思われているだけ。
壁に身体を持たれ掛けさせずるずると下に落下した。頭を両の手で抱え込み、些細なネガティブからこの世の全てを知ったような苦しみに支配され、生きる事実に向き合うのが苦痛だと、身体を震わした。
「ああああああああ…」
誰か私を見つけてよ。一人ぼっちは嫌なんだ…!
誰も私に近ずくな。私をこのまま死なせろ…!
「はあ?何をぐだぐだ考えてンノ?オマエ」
?
私は思わず身体を大きく跳ね上げる。一気に速まる焦りの鼓動。壁に身体をぴたりとくっつけ私は呼吸を停止させた。
「ぐだぐだぐだぐだ考えてどこにも進まないテメェみたいな生き物が一番嫌いなんだよな。なあ?そうだろう?」
「こっちを見ろよ」
果たしてこの声は幻聴だろうか?果たしてこの声のする方に視線を移動させて大丈夫なのだろうか?
月光のみが満たす音のない空間に鈴虫の声が静かに響き続ける。
畏怖と期待の入り混じった奇妙な感覚で私はゆっくりと振り向いた。
そこには黒色のウサギが居たのだ。
口もとはニンマリと歪み。ぎざぎざとした歯をこちらにちらつかせる。
「これからなんだよ、オレたちのストーリーは。なあ、そうだろう?」
大丈夫…。
私にはまだ進まなければならない道がある。
彼の底なしの赤い瞳を魅た私は口を動かした。
「……ヲズワルド。君の名前はヲズだ…。」
「どうもっ」
ケタケタと上を見て奇妙に笑うヲズにつられ私も軽く笑わせてもらった。
朝日が昇るその日まで私はこれを夢だと思っていた…。
コメント
4件
執筆お疲れ様です!🐰 ヲズという名前を耳にして、急いで「ヲズワルド」へ戻りました。 少し前に投稿された物語なのに、このような形で伏線を回収するって 物語を並行して執筆しているのでしょうか…🤔🤔 明るいとは言い難い彼女の世界にヲズが出てきて、少しだけ明るくなったように思います。どう物語に関与していくのか楽しみです! (「私が私を1番嫌うから」がお気に入りです🤗✨)