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次の日の朝。

焔一行は宿屋を出て、今は当初の目的地でもあった冒険者ギルドにまで来ている。空はすっきりと晴れており、新しいクエストに挑戦するには丁度いい天気だと言えよう。そんな青空を窓越しから見ているとつい室内に居るのが勿体無いと思えてくるが、まずは話を聞かねば何も始まらない為、大人しく案内された部屋で焔と五朗は椅子に座って待機している。

リアンは焔の背後で警備兵の様な姿勢で立ち、隠れ身の仮面を被って姿を隠す。魔族達との最前線であるこの土地では、最近はすっかり外出させてもらえていなかったリアン魔王であっても、もしかしたら顔を知る者が居るかもしれないからだ。


「お待たせしました」

扉が開き、明るいトーンの声が室内に響いた。

「受付担当のナツメと申します。以後お見知り置きを」

ペコリと頭を下げて中性的な容姿をしたナツメが彼らの対面に置かれた椅子に座った。ナツメの後ろからは小柄な猫の獣人がついて来ていて、湯呑みを複数のせた木製の丸いお盆を持っている。

お互いの間には大きなテーブルがあり、猫の獣人が焔達の前にお茶を並べ、それが終わると無言のまま軽く礼をしてから早々に去って行ってしまった。『ありがとう』と礼を言い、そのついでに頭を撫でたい衝動を感じさせる可愛さだったが、残念ながら焔も五朗も、その様な行為を見知らぬ相手にさらりと出来る様なスキルは持ち合わせていなかったのが悔やまれる。


ナツメは手に何冊もの薄いファイルを持ち、机の上でトントンッと上下にやってそれらの高さを整えた。そして一度咳払いをすると、営業用といった感じの笑顔を浮かべながら「この度は突然の呼び出しに応じて頂き、ありがとうございます」と言って再び焔達に向かって頭を下げた。

「手紙では、『救出依頼』との事だったが」

「あ、はい」

早速本題に入った焔に対し、『おや、意外にせっかちさんですねぇ』と思いつつナツメが頷く。最前線なのでこの冒険者ギルドの受付業務は意外に忙しく、だらだらと無駄話をしている程暇でも無い為、正直ありがたい対応ではあった。


「『麒麟の神子の救出』が今回の依頼となります。えっと……」


どこから話そうかと思いながら、ナツメが「この街の成り立ちはご存知ですか?」と焔達に問い掛ける。その問いに対し、五朗がサッと高らかに手を挙げた。ノリ的には授業中の生徒の様な感じだ。


「はい!四聖獣の神話っすよね?喧嘩ばっかしてた聖獣達を麒麟の神子が仲裁に入って、おかげで仲良くなったっちゅーやつ」


「その通りです。えっと……」と言い、ナツメが手元のファイルを開き、五朗の名前を確認する。

「昼下がりの人妻さんは歴史にお詳しいのですね。この街の歴史に興味をお持ち頂けてとても嬉しく思います」

和やかに微笑まれながらその名前を久々に呼ばれてしまい、五朗が自分の顔を両手で隠し、天井を仰ぎ見た。 目の前で直接、しかも綺麗な笑顔でそんな名前を呼ばれても、現実ではこれっぽっちも笑えず申し訳ない気持ちになってくる。ホント、名前で遊ぶ行為というものは画面越しでなければやってはいけない事なのだと五朗は改めて思った。

「五朗と呼んでやってくれないか?長いから」

「ゴロウさんですか、了解しました」

素直に頷き、ナツメが焔の要求を聞き入れてくれる。本物のゲームと違って細かい対応を即座にしてもらえる柔軟性は本当にありがたい。


「さて、話を戻しましょう」と前置きをし、ナツメがクエストの詳細を話し始めた。

「ご存知の通り、北方最大の都市である『ウルル・カストラ』は遥か昔、四聖獣達が納める領地があり、四つに分かれて長年仲違いをしていました。いつかは仲良くとは内心では多少思いつつもそう上手くもいかず、結局彼らからの信頼も厚かった麒麟の神子が四聖獣達の仲裁をする事で一つの国となりました。それから長い歳月を経た事で、残念ながら単独で独立国として国を維持する程の力は失われてしまいましたが、現在はヴォルペ王国の一都市として、また、魔王軍との戦闘においては最前線基地としての役割を担っております。時の流れで街の体制が変わった今でもこの街にとって四聖獣と麒麟の神子の神話は非常に重要で、十年に一度、彼等に守護への感謝と永続的な繁栄を願う祭りを開催しています。ですが、その祭りが目前に迫った今、次世代を引き継ぐ予定の新しき神子が、何者かによって誘拐されてしまったのです」

「じゃあ、このままでは祭りが中止になるのか?」

「はい。麒麟の神子は慎重に選ばれた唯一無二の存在故、今更選定のし直しも出来ません。そのうえ決まりとして十歳前後の少年でなければならず、今年で二十歳になる現職の神子に引き続き役目を担ってもらう事も出来ないのです」

「初代の麒麟の神子が少年だった事にあやかっての風習っすね」

「その通りです」

一度頷き、ナツメが話を続ける。

「犯人は次世代の神子が祭りで着る服の衣装合わせをしている最中、白昼堂々神殿の窓から侵入し、着替えを手伝っていた神官達の静止など一蹴して攫っていったそうです。『その姿は上から下まで真っ白で、長い尻尾が生えていた』『神々しいお姿に目が眩んだ』『白虎の神殿方向へ消えて行った』『好き、惚れちゃう』などと言った証言を得ています」

「……一部オカシイのが混じっていますけど、アリなんっすね」

「証言に基づき調査した所、永年眠っていた古代遺跡『白虎の神殿』が機能を取り戻した事を確認致しました」

「我らには、その神殿に居るであろう犯人を捕まえ、神子を取り戻せと?」

「はい。四聖獣の神殿は全て、永い時を経て現在は地下に存在する為、入口は一つづつしかありません。今はその入り口に鍵を掛け、中からの脱出を防いでいるので、犯人達は神殿内に留まっているはずです」

「白虎の神官さんは何か知っていたりしないんですか?流れ的に、そこの遺跡の管理者なんすよね?」

「早速問い合わせたところ、彼は何も知らないとの事でした。自分の管理している神殿に籠られてしまった事で酷く動揺し、驚いてもいました。他の神官達には『犯人の協力者なのでは?』と疑われてしまってもいます。まぁ……眠っていた神殿が起動し始めれば、疑心暗鬼になるのは当然でしょう」

「そうか、わかった」と焔が答え、席から立ち上がる。

「期限や、請け負うにあたっての条件はあるのか?」

そう訊きながら五朗に目配せをして『早速行くぞ』と焔が合図をすると、彼も慌てて席を立った。

「えっと、祭りは次の満月の日に開催されるので、その前日までには」と、扉に向かって歩き始めた焔に向かいナツメが少し大きめの声で言う。せっかちさんだと感じてはいたが、ここまでか!と強く思った。

「神殿の場所などは、そちらの地図にこちらから情報を送っておきます。ですが、報酬などの件は一切聞いていかなくてもよろしいのですか?」

「断られる事なんか、そもそも想定していないんだろう?なら俺達はただやるだけだ」

「……まぁ確かに。えぇ、その通りです。では、かかった経費の回収も出来ない程ヒドイ報酬では無いとだけ、今はお伝えしておきますね」

「わかった。じゃあ行って来る」

そう言って振り返る気配の無い焔の背に向かい、ナツメは「はい!お願いします」と大きな声で答えた。



「……ふぅ」

部屋に一人となり、受付係であるナツメが息を吐いた。

「世界最高レベルの召喚士とはどんなお人かとドキドキしていましたけど、思った以上に不思議な方でしたねぇ」

焔の詳細をまとめたファイルを開き、改めて目を通す。だが他の冒険者と比べて記載されている情報は極端に少なく、召喚士でありながら召喚魔の種類や能力といったものは何も書かれていなかった。

「……白虎の神殿に立て篭もった者がどうやら只者ではなさそうだという理由から、神官達に『最高レベルの者を向かわせろ』と指示されてあのパーティーに頼みましたけど、大丈夫でしょうかねぇ……」

『召喚士』と『魔毒士』という後衛二人組の構成である事に不安しか抱けず、ナツメの表情が段々と渋いものへと変わっていく。『こんな時、きちんと勇者様が育ってくれていたら何も心配いらなかったんですけどねぇ』という本心は言葉にせず、そっと飲み込んだ。

いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

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