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「俺は、彼女の心の準備ができるまで待つし、俺に抱かれたいと思った時に、彼女を存分に抱きたい」
「…………よほど本気なんだな。高村さんの事」
純がしんみりとした面持ちで、それにしても、と前置きした。
「優ちゃんと完全に縁を切るために会ってる時に、高村さんに遭遇するとは、お前も運がねぇな……」
「……だな。これは俺が迂闊だったとしか言いようがない」
「しかし、優ちゃん怖ぇな。お前のスマホ奪って、高村さんのID消しちゃうなんて、ヤバ過ぎだろ」
「さすがに俺も腹が立った。スマホ奪い返して、アイツの目の前で、通信拒否して優子のID削除した。もし何かやらかしたら、警察に通報するから覚えておけ、って言ってやったよ」
「あまり怒らねぇ豪が、そこまでやるって事は、相当お怒りだったんだな」
純がグイっと生ビールを流し込む。
「それとさ……もうアイツのIDを削除したから、メッセージは来ないけど、先月にお前と飲んで以来、優子からのメッセージが一日に何度も届いて凄かったんだよ」
豪は、純にも一応報告しておいた。
あの女からのメッセージの内容が、日に日にエスカレートしていき、ストーカー行為になっている事や、昨日会った時の会話を録音した事も。
「マジか……。お前、気を付けた方がいいぞ? そういう女、どこから仕掛けてくるか、分かんねぇからな?」
「そうだな……」
二つのジョッキが空になり、豪は生ビールを二つ追加して、冷奴と枝豆、串焼きの盛り合わせとタコわさびを追加した。
「しかし、連絡手段が全くないっていうのはキツいな……」
純が頬杖を突きながら、タコわさびをつまむ。
「だからお前を誘って飲んでるんだろ? お前は彼女の上司だし、俺の中学時代からの親友でもある。何か彼女に関する話はねぇのか?」
豪は、皿の上にひとつだけ残った、鶏の軟骨唐揚げをパクリと食べた。
コイツの前で、奈美の事で必死になるのが、カッコ悪過ぎて痛い。
「高村さんは、仕事以外ほとんど話さないからなぁ。でも連休前も毎日一時間残業してくれて、お前が手掛けているカートリッジの検査も、しっかりやってくれたよ」
純がタコわさびをつまんだ後、生ビールをグビグビと飲む。
「そうか。彼女は優秀なんだな」
「まぁ豪も分かってるだろうけど、高村さんは真面目で責任感もある。そして最近また美しくなった女性だ」
地味な作業着を着て、顔をうっすら汚しながら熱心に仕事に取り組む彼女を想像する。
そんな姿でも、奈美は可愛い。
着飾って外見を磨く事しか脳のない女よりも、彼女は遥かに美しい。
「彼女を狙ってる男はいるのか?」
「さあな。お前も何度か見学に来てるから分かるだろうけど、男もそこそこいるが、女性も結構いるからな。噂を聞かないだけで、実は高村さん狙いの男は、いるかもしれねぇなぁ〜」
豪は、空になりそうなビールのジョッキを眺めながら、そうか、と答えた。