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後は想像の通りだ。
カピリスの丘で、リズに続ける。
バルジウスは奴隷化し、オレに都合のよい契約書と遺書を書かせ、自害させた。
その時に得たバルジウスの財産と土地は現在の裏市を牛耳る奴隷商会の礎となったわけだ。
裏市を牛耳るのも楽ではなった。
当時席巻していた闇組織の連中やバルジウスの残党とは幾度となく戦闘になったし、教会が敵に回った時は、一時的に反逆者ルナと共闘条約を結んだことすらある。
結果、ダルゴは暗殺者の爆雷呪文で弾け飛んだし。
トリキネスは二重スパイを働いて、教会の連中による拷問の末に絶命。
ルナとの交渉が決裂して、資金源を断たれた時は「お前らを売ることはない」と約束した奴隷達を過酷な炭坑に売りさばかなければならなかった。
だが、そうした犠牲の上にできたことがある。
オレは奴隷の売買に制限をかけ、流通を支配することで商品価値を引き上げた。
今の価格に戻すには8年ほどかかったが、高価な商品となったことで、帝都の人々は奴隷を無闇に殺さなくなった。
リズ。
確かにお前が言うとおり、オレは邪悪なのかもしれん。
だが、6歳のオレが罪を懺悔し教会に出頭しても、お前達に処刑されるだけだ。
そうなれば、今でも奴隷は殺されていただろうし。人狩りや焼き討ちも続いていた。
奴隷商人どもが乱獲を繰り返せば、エルフあたりから戦争を仕掛けられていたかもしれん。
「確かに……そうだ」
リズが歯噛みする。
「私は正義とは何か悪とは何かと自分に問い続けてきたが、考えるほどにわからなくなる」
「だが、お前のような血塗られた手でも人を救えるのだと知って安心したよ。どれだけ間違いを犯しても、非道を成しても、それでも。できることはあるのだな」
カピリスの丘の下で乾いた骨が転がり、砕け散った。
人は皆、誰かの屍の上に立っているのだが、なぜか皆それを認識することを拒む。
意図的であれ、無意識であれ。
回避可能であれ、不可能であれ。
生きている以上。
我らは命を犠牲にしている。
そこから目を逸らすことは優しさでも強さでもあるまい。
真の優しさとは、弱者を骨の髄まで利用し、砂に変えてやることだ。
単体では何の役にも立たないのだから、早くオレの糧になった方がいい。
資源の再利用。
つまり、エコというやつだ。
「ははは、でも。やはりお前は邪悪だ。いつか拷問して殺してやる」
リズが朗らかに笑う。
うむ、いいぞ。その意気だ。
その時はお前を奴隷化して生存率が最も低い炭坑に売り飛ばしてやる。
帝都から少し離れた炭坑では第一ルナックス戦争時に捕虜となったオークが働いているそうだ。
オークは魔物の中でもとびきりのゲスだから、お前は性的に搾取され、女としての尊厳を破壊されるだろうな。
「そうか、それはいい。私にはお似合いの末路だ」
自嘲する女騎士の顔から、脆さが消えていた。
「まぁ、勝つのは私だがな。アーカード、お前は絶対に殺してやる」
「ぬかせ」
オレが邪悪に、リズが快活に笑う。
久々に酒を飲んだからか、気分がいい。
第七魔法の事を話したのは迂闊だったが、強制奴隷化魔法が流出した際の危険性が分からぬリズではなかろう。
その点については、信用している。
「リズ・ロズマリア様、今宵はどうしますか? もう少し飲まれますか?」
「いや、そろそろ戻るよ。深酒はよくないからな。
今日はありがとう。
あまりにもまっすぐな感謝に、面食らってしまった。
オレには絶対にできないことだ。
「あ、そうだ。言い忘れていたんだが、部下がゼゲルを捕まえたので明日あたり拷問する予定だ」
ゼゲル?
ああ、ゼゲルか。
存在を忘れていた。
「見に来るか? 血しぶきがおもしろいように上がるぞ」
「いや、今更ゼゲルの為にわざわざ時間を取るのもな。今は印刷所の増設作業が忙しいんだ」
というかリズよ。
血しぶきが上がる時点で、それは処刑なのではないか?
「ふふ、やはりお前はそのしゃべり方の方が良い。前のは堅苦しすぎていけない」
「皇帝の血筋であるロズマリア家に敬意を払っているのだろうが、こうしている時くらいは一人の女、リズとして接して欲しい」
リズは以前にも血で判別される事を嫌っていた。
まぁ、そのくらいなら大したコストもかからんし。いいか。
いいが、二人の時だけだぞ。
「ああ、わかった。また二人で飲もう。屍の丘の上で」
酒瓶をぶつけ合い、オレ達は別れた。
そして、これが永遠の離別になった。
ある意味、その後に再会したと言えるがあれはノーカウントだ。
この日を境に、オレの中でリズは死んだことにしている。