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温泉のロビーには誰もいなかった、天気の良い外の日の光だけが二人を照らしている、桜はジンに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった
初めて会った時の彼は・・・
見たことがないほど背が高くて、ハンサムで、大きな社長デスクに座ってあちこちに電話をかける姿はカリスマ性に満ちていた
生まれつき、すべての女性の目を楽しませる外見を持って生まれてきたような男性だった
綺麗にオールバックに整えられた黒髪、大企業の社員をその肩に一心に背負っている彼の振る舞いの下に、鋼鉄の意思がひそんでいた・・・
彼のピッタリとしたビジネスシャツの薄い生地越しに、上半身の筋肉の動きがハッキリと見えた、広い肩幅を見て、こういう立派な体つきの人はこれまで自分の周りにいなかったなと彼女は思った
考えてみれば、桜の島の生活では、小柄な優しい父や祖父、旅館の年配の従業員に囲まれて、自分の好きな男性像がどういう体つきをしているかなど考えたこともなかった
唯一、桜に近い男性といえば政宗だが、桜の中では小さな頃から一緒にいる男の子の兄弟のような感覚で、付き合っていたがフレンチ・キス止まり、心を震わせる魅力的な男性とはほど遠かった
しかしジンをひと目見た瞬間、彼女は思った
―私はこんな男性が好き―
会議中でも彼が何かを取ろうと手を伸ばした時など、自分がふと彼の姿を凝視していることに気付く、うっかりしていると口をだらんと開けて、涎でも垂らしそうだ、仕事をしている彼はそれほど素敵だった
こんなに素敵な男性が自分のボスなのに、どうすることもできない、魅力的に誘惑するなんてとうてい無理!なんとも情けない気持ちだった
自分には手の届かない存在だと思っていた、そんな彼の役に立てるならと「契約結婚」の相手に名乗り出たのに——
今の彼はうちの家族に振り回されてこんなにボロボロになっている・・・見ていてなんとも痛々しい・・・
この人の契約結婚の相手はもっと他に良い女性がいるのではないだろうか・・・私が相手なばかりに・・・いらない苦労をして・・・
「すいません・・・本当に・・・なんてお詫びをすればいいか・・・」
彼が自分の家族のためにあれこれしてくれていることは「契約結婚」の域を超えている、彼を助けたくて契約結婚の相手に名乗り上げたのに・・・うちの家族に迷惑をかけられて、これでは彼が自分を嫌になって半年もたたないうちに契約を解消されてしまうのが「落ち」だ
桜はポロポロ涙を流した
「桜?・・・」
ジンが優しく桜の頭を撫でた、小さな頃からうちは普通の家庭と違うと思っていた、父と祖父はいつも観光客と騒いでばかりで・・・
母はいつも帳簿とにらめっこし、季節の旅館のイベントにどれだけ客を来させるかに命を懸けていた・・・小さい頃・・・風邪をひいた桜はお客様にうつしたりでもしたら旅館は経営していけないと、病原菌あつかいで母屋で隔離された
病気になるといつも一人で隔離された・・・母すらも見舞いに来なかった・・・なぜなら桜が風邪を移して母が倒れると、この旅館は回らないからだ
いつもいつも従業員やこの島の人の目を気にして生きていた、体調が悪い日でも、雨の日も風の日も、いつもニコニコ機嫌良くしていないといけなかった、旅館の主の娘として
普通の家族の元に生まれたかった・・・お父さんがサラリーマンで、お母さんは専業主婦でいつも家にいて、おやつにケーキを焼いてくれるような人・・・家族だけでひっそりと暮らしたかった・・・こんな大旅館の跡継ぎなんかじゃなく・・・
沈黙が二人の間にに柔らかく溶けていき、桜が鼻を啜る音だけが辺りに響いた、やがてジンが言った
「ここへ来てから・・・君はずっとそんな険しい顔をしてると思っていたけど・・・なんか理由が分かった気がするよ」
「え?」
桜はジンを見て目をぱちくりさせた、当惑して視界がぼやけている、子供のようにしゃっくりが出て恥ずかしい
「誰にも言えなくて辛かったね、その思い・・・僕にぶつけてもいいよ」
片手を桜の顎に添え、親指で桜の涙を掬った、彼の一オクターブ低くなった深い囁き声が、桜の耳をくすぐった
「僕が全部受け止めるから・・・」
ジンが顔を近づけてきた・・・何をしてくれるのか察した桜は期待に目を閉じて上を向いた、二人の唇が重なり合うと、桜は夢中で彼の唇に自分の唇を押し付けた
コメント
2件
やーん♡良い✨️💕(*ฅ́˘ฅ̀*)♡ もうお互いの思いを思う存分ぶつけ合ってー(๑′ฅฅ‵๑)ウフフ
キャーいいぞ~♪~(´ε` ) お互いの心の隙間ぎゅうぎゅう埋め合いなさいな💕 心配しすぎてちょっとばかり損したわ🥱 浜やんとフネの動向が気になるわねぇ🧐