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「ちょっと私、トイレに行ってくるわ」
豪は反応もせず、すぐにメッセージアプリを開き、優子がいない隙に、奈美へ言い訳がましい内容のメッセージを送り続けた。
『奈美。あれは元カノで』
『完全に縁を切るために会っていたんだ』
『奈美に黙ったまま、元カノに会っていた事は』
『本当にすまなかった』
『でも、これだけは分かってほしい』
『俺が好きなのは奈美、君だけだ』
『夏季休暇中に、奈美と会って』
『ちゃんと話がしたい』
『このまま誤解した状態で』
『うやむやになるのが、嫌なんだ』
あの女に見られるのが癪で、途切れとぎれの送信になってしまった。
「へぇ……。今の彼女、奈美ちゃんっていうんだ」
いつの間に戻ってきたのか、優子は背後から、豪のスマホを覗き見している。
「お前、勝手に人のスマホを見——」
『るな!』と言い切る前に、優子は彼のスマホを引ったくった。
豪から逃げながら器用にスマホを操作させると、メッセージアプリの奈美のIDを表示させ、突き出す。
「私と寄りを戻さない豪なんて、もっともっと困っちゃえばいいのよ!!」
目をギラつかせて不気味な笑みを浮かべる優子は、真っ黒に塗り潰されたオーラに包まれている雰囲気。
ラスボスが第二形態になっちまったか、と馬鹿げた事を考えている彼をよそに、元カノは目の前で、奈美のIDを消した。
「お前!!」
豪はスマホを奪い取ると、すかさず操作して、優子のIDを表示させた。
「何でも詮索して、プライバシーにズケズケと入り込んで! 人のスマホを勝手にいじるストーカー紛いの女のIDなんて、俺には必要ねぇんだよ!!」
かつての恋人を睨みつけながら、彼は本人の目の前で見せつけるように、優子のIDを通信拒否にしてから削除した。
「豪!!」
優子は、みるみる顔をくしゃくしゃに歪ませ、喚き出す始末。
駅ビルを行き交う人たちが、修羅場を興味深々で見やるが、そんな事はどうでも良かった。
「これでお前とは完全に切れた。もし、しつこく付き纏ったり危害を加えるんだったら、警察に通報するからな? よく覚えておけ」
声のトーンを落として冷酷に言い捨てると、豪は、元カノを置き去りにして駅の改札に向かった。