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第52話:未来カフェの午後
昼下がりの街角。
ガラス張りの未来カフェの店内は、淡い緑色の光に包まれていた。
水色のパーカーにベージュのパンツを履いたまひろは、テーブルに置かれた注文端末を前に指を動かす。
向かいには、ラベンダー色のブラウスに薄灰のカーディガンを羽織った青年の同級生・レン。丸縁メガネ越しに優しい目を向け、落ち着いた声で言った。
「まひろ、やってみなよ。ここは“未来カフェ”だから、全部カナルーン入力だよ」
端末画面に淡緑のインターフェースが流れる。
まひろは声に出しながら指で打ち込んだ。
「メニュー」
↓
「カフェラテ ヒトツ」
↓
「ミライケーキ ヒトツ」
↓
「カイケイ」
↓
「ケッサイ」
(ドットコードが浮かび、ヤマホをかざしてピッと音がなる)
↓
「オワリ」
端末の画面には【オワリ】と表示されたが、レンは笑顔で言葉を添える。
「アンズイで安心、ってね」
まひろも小さく頷き、同じ言葉を繰り返した。
「……アンズイ」
カフェの大画面モニターでは宣伝番組が流れている。
明るい声のナレーション。
「呼び出しカナルーンで入口を開き、アンズイで安心の終止符!
未来のカフェも、安心と共に」
店内にいる人々が自然と口にする。
「アンズイで安心〜」
まひろは窓の外を見つめながら呟いた。
「端末にはオワリって出るのに、みんなアンズイって言うんだね」
レンはふんわり笑って答える。
「え〜、そうだよ。オワリは操作のことば。
でもアンズイは文化のことば。
“安心して暮らす”って合図なんだよ」
その言葉にまひろは黙って頷いた。
頭上のカメラが小さな赤いランプを光らせていたが、客たちは誰一人として気にしていない。
カフェの午後は、静かな監視と「安心の合言葉」に包まれていた。