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第4話 会えない日
朝、
鍵を回す前に、
違和感があった。
結城の上着は、
昨日のまま。
袖口が少し湿っている。
扉を開けても、
音が返らない。
部屋は、
空だ。
彼女の靴はない。
カップも一つだけ。
結城は、
中に入らず、
扉を閉める。
胸の奥で、
何かが一拍遅れる。
通りに出る。
車の音が、
やけに近い。
止まっては、
流れ、
また止まる。
結城の髪は、
風に乱れ、
整え直す気にもならない。
信号待ち。
足元の振動が、
足首まで伝わる。
クラクション。
ブレーキ。
低い回転音。
耳の奥が、
塞がらない。
昼。
連絡は来ない。
仮の呼び名で呼ばれても、
返事が遅れる。
相手の口元が、
一瞬止まる。
横断歩道の 線の上に立つと、
音が増える。
走り抜ける車。
遠ざかる音。
結城は、
視線を上げない。
夕方。
アパートの前を通る。
通り過ぎる。
立ち止まらない。
部屋に戻らない選択が、
初めて重くなる。
夜。
窓を閉めても、
音は残る。
エンジン。
踏切。
遠くの衝突音。
結城は、
床に座り、
背中を壁に預ける。
彼女の姿を、
思い出そうとして、
思い出せない。
顔ではなく、
立ち方。
距離。
会えない日が、
形を持ち始める。
交通音だけが、
一日中、
結城のそばにいる。
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