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圭と柏木がロビーまでHanaを見送り、挨拶を交わすと、彼女は丁寧に礼をして、社屋を後にした。
「それにしてもHanaさん、やっぱり神だな。俺、途中で仕事だというのを忘れてたよ」
柏木が、参ったと言わんばかりに、後頭部を撫で付けている。
「彼女は、俺たちが考えている以上に、幅広いユーザー目線で意見を言ってくれてたな」
圭は、先ほど防音室で見せた、Hana、もとい美花の強い眼差しを思い出す。
「それに、嬉しい事があって、新曲を制作してるって言ってたな。動画投稿サイトにアップされるのが、楽しみで仕方ないよ」
「まぁ…………柏木が気にするのも分かるが、いずれ投稿するんじゃないか?」
言いながら圭は、彼女の嬉しい事って何だろう? と考える。
(そういえば、怜の恋人、奏さんと彼女は、小中学校時代の親友って言ってたよな……)
圭は、ふと美花の母が営む店で、弟カップルと鉢合わせした時の事を思い出す。
「とにかく、Hanaさんが提案してくれた意見を、なるべく取り入れていく方向で、案件を進めていこう」
「あっ…………ああ、了解」
柏木の声で我に返った圭は、慌てて笑顔を作り、部署へ戻った。
帰り支度を済ませた圭が、ロビーを抜けて社屋から出る。
(今日は少し遅くなったな。腹も減ったし、あの店で晩飯を食って帰るか)
午後は、Hanaこと美花と、開発中のアプリ『スマートミュージック』について、熱の籠った意見交換をしたせいか、気持ち的に疲れている。
だが、その疲労感は、心身ともに沈み込むようなものではなく、いい仕事をして充実した、心地良い疲れ、といえるだろう。
圭のつま先が『家庭料理 ゆき』へ向けられ、軽やかに歩みを進めた時だった。
「圭っ!」
飽きるほどに聞き覚えのある声が、スーツ姿の背中に投げられた。
彼は立ち止まると、眉間に皺を寄せて、表情を険しくさせる。
「…………」
背後から浴びせられた声を聞き流しながら、彼は声の主を横目に、沈黙のまま佇んだ。
ハイヒールのコツコツとした足音が、後方からにじり寄り、至近距離になる直前で、圭がゆっくりと振り返る。
「ライバル会社のご令嬢様が、今さら何の用だ?」