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「久しぶりに会ったのに、そんな言い方しなくてもいいんじゃない?」
突如現れた女は、昨年のクリスマスに会った時と変わらず、黒づくめの服装、鮮やかな赤のルージュで唇を染めらせている。
「…………これで会うのを最後にするって言ったのは、お前だよな?」
「まぁ……確かにそうだけど。急に、あなたに会いたくなったのよ」
圭のかつての恋人でもあり、別れてからも身体の関係を結び続けてきた井河千夏が、ショートボブの黒髪を、耳に掛ける。
「で? お前、ゴーランドの御曹司とお見合いしたんだろ? そんな女が、俺に何の用なんだって、聞いているんだが」
圭の中に、嫌悪感が込み上げ、太々しく言い捨てる。
「ねぇ、圭。私たち…………もう一度やり直せない?」
千夏の言葉に、圭は僅かに怯みながらも、涼しげな瞳を見開かせた。
「お前…………見合いしたからには、結婚するんだろ?」
「…………お見合いは……うまくいかなかったわ」
目の前の女が、シュンと顔を俯かせるが、圭にはそれが、態とらしい演技のように見えてしまう。
「で? ゴーランドの御曹司がダメなら俺……と思って来たワケか」
「…………」
千夏が無言のまま、コクリと頷くと、圭は、あからさまに大きなため息をつく。
「悪いが、俺は二月に副社長から降格になって、今はDTM事業部の課長だ。お前の好きな御曹司ではないし、DTM事業部は、思った以上に忙しい部署だ。疲れてるから帰りたいんだが」
「圭! 待って!」
彼は、千夏から距離を取りながら適当に言い繕うが、女はスーツの袖を掴んでくる。
「離せ。俺はお前に用はない」
冷酷な眼差しを千夏に向けて言い放つが、それでも腕を離そうとしない。
「やっぱり…………圭とやり直したい。あなたは…………私の人生で出会った男たちの中で…………最高の男よ。外見はもちろん、心も…………カラダも……全て……」
「…………へぇ……。そうか……」
真紅に色付いた唇が妖艶に動くのを、圭は千夏に、冷ややかな眼差しを這わせていく。
と、同時に腹の底から湧き上がる、ドロドロとした黒い感情。
(そこまで言うんだったら……)
唇を卑しく歪めさせ、圭は千夏の細い手首を強く握る。
「なら…………来いよ……」