テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
僕は昔、こんなに善人ではなかった。
逆に、人を嫌うような性格だった。
何故だろうか。
考えていることが分からないから、かもしれない。
大人は平然な顔をして嘘をつくし、子供だって突然気分が変わって分からない。
そんな態度をあからさまにしていたら、親にも見放され、学校でも孤立していた。
中学生。
いつも通り人を嫌いながら送っていた学校生活で、騒がしい声が聞こえた。
「おい!早く立てよ!」
「これ捨てられてもいいの〜?」
「やめてよ…」
俗に言ういじめだ。
『……』
この時僕は苛立っていて、静かにさせるために注意をすることにした。
この時からだった。
運命が変わったのは。
「ひっ!」
僕の立てた物音にビビった奴らは情けない悲鳴を上げる。
『お前らうるせぇよ』
『自分より弱そうな奴見つけてピーピーギャーギャー騒いでおもちゃ扱い?』
『お前らがおもちゃにされてぇか?』
「ひっひぃぃぃぃ〜!」
「すみませんでしたぁぁぁぁ」
『なんだアイツら情けな』
「あ…ありがとう…」
いじめられっ子が喋ったのを聞き、僕は彼の方に向く。
「ありがとう…ありがとう…!ほんとに……!!」
彼は涙目で、何回も何回も僕にありがとうと言った。
何とかなだめて保健室に連れて行ったが、その帰り、僕は思うのだった。
(人から感謝されるのも、悪くは無い。)
と。
僕が変わったのはそこからだ。
『ただいま!母さん!』
今までのぶっきらぼうな口調をさっぱり辞め、丁寧な言葉遣いを心がけた。
『母さんも疲れてるよね?夕飯手伝うよ!』
人のためになることを意識して行動するようにした。
『あ!おかえり父さん!肩とか凝ってたり──』
学校でもそんな風に振る舞っていて、これが完璧な世界なんだと過信していた。
そんなある日…
『え?██君が…死んだ?』
どうやら、前のいじめられっ子が自殺したらしい。
これは後になってわかったことだが、僕がいじめを止めたと思っていたあの日以降、彼は裏で虐げられ続けていたらしい。
誰にも気付かれない所でこっそりと。
それが苦になった彼は深夜学校の屋上から……。
『……』
彼が死んだ後、次のターゲットは僕になった。
「はははっ!お前が他人に気付かれないアソビを思い付かせてくれたんだよ!!」
「感謝してるよ〜!」
奴らはそう僕に掛けながら蹴ったり殴ったりしてくる。
“彼”はこれに耐えていたのか。
奴らの言う通り、ここは人通りのほとんどない場所で、視界も悪く大抵は人に見つからないだろう。
ふと、頭によぎったんだ。
いつまで続くんだろう
と。
どこかに逃げ道でもあるのか。
それとも、“彼”と同じように死の道を歩むしかないのか…
そもそも、“彼”を自殺に追い込んでしまったのは、奴らのいじめをエスカレートさせた僕なのではないか。
ネガティブなことが起こっていると気持ちまでネガティブになってしまうもので、段々と彼と同じ道を選んだ方が楽なのではと思えてきてしまった。
ふと目が覚めると、そこは真っ暗闇だった。
殴られていく途中で意識を失ってしまったのだろう。
フラフラとした足取りで家まで向かうと、そこで衝撃的な言葉を聞いてしまった。
「ねぇあなた…正のことなんだけど…」
「あぁ…異論ないよ」
「そうよね…あんなゴミ、私達の子供だなんて信じられないものね…」
「全く、昔から口も態度もなっておらず、俺達に恩のひとつすら感じん」
「しかも最近何を企んでるのか、妙に更生した態度見せててキモイのよ…」
「同感だ」
『……!』
僕は、親からは子供として見られていなかったらしい。
それもそうなのだろう、昔から、人を嫌って、寄り付こうとしなかったのだから。
父親の言う通り、恩など感じていなかった。
それを実感した僕は、どこにも居場所はないんだと気付いた。
次の瞬間、僕の体は自然に動いていた。
場所は学校の屋上。
“彼”と同じようにいなくなってしまおう。
そう考えたのだ。
僕は地面を蹴って重力に身を任せた。
どうか、次生まれる時は、人のために行動して、恩を感じられる人になれますように──
目が覚めると、そこは知らない神社。
『え…?何ここ…神社?』
『僕は…死んだはずじゃ…』
「あ」
『うわぁぁぁぁ!!』
誰もいなかったはずなのに、突然目の前に女性が現れた。
「あ、ごめんごめん、驚いちゃった」
『い…いいいい今…何が…』
「私!月影未彩!今あなたの前に瞬間移動で来ました!」
『しゅ、瞬間移動……?』
この人は何か冗談でも言っているのだろうか…。
「にしても君、ここに来たってことは、何かあったんでしょ?」
こちらを見透かしたかのような質問に、一瞬固まってしまった。
「大丈夫だよ、否定しないから。」
そんなふうに優しく微笑んだ少女に何かが救われ、気付いたら全てを話していた。
「なるほどね、普通子供が更生したら喜んであげるのが親ってもんだと思うし…学校でも、そもそもイジメしていい事じゃないし…」
「とりあえず、君の事情は把握した。君はどうしたい?」
僕の考えは1つだった。
『生まれ変わりたい』
僕のそのつぶやきを聞いた少女は、ニヤリと笑ってこう言った。
「もちろん!」
「ここは麗流楼水。居場所を失った人が集まる町。」
「この町にいる人は、それぞれの過去のもと、色んな個性を受け入れるよ。」
「君はこの町で、君の生きたいような姿として生まれ変わったかのような生活を送ればいい。」
「義谷正くん。君を麗流楼水に歓迎致します」
そしてまた1人、市から人が消えていく。
コメント
3件
別垢から失礼。 今回の主人公 義谷 正くんは、天宮様からの参加型キャラとなります。 この麗流楼水過去編もあと2話で完結という扱いかなあと言う感じです。 元々麗流楼水キャラ全員の過去を…って思ってたけど、さすがに自分のキャラはもういいかと思って、希望を貰ってる参加型キャラだけ書ききっちゃおうと思ってます