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「今、私の顔を見て驚いてたでしょ?」
「何か若々しくなったけど…メイクでも変えました?」
「変えてないよ。只…亜季ちゃんが私の中の時間を戻してくれたみたいなの…」
「つまり若返ったって事?」
「うん。たぶん亜季ちゃんは、私と紺野くんの歳を出来るだけ近づけようとしたらしいけど、それ以上に若返ってしまってるみたい。私の見た感じは20代後半くらいってところかな…」
美咲さんは、バッグに入っていた手鏡を取り出し、色んな角度から自分の顔を見ていた。
初めて美咲さんに会ったのは、僕が17歳の時で美咲さんが27歳の時だった。
あの頃の美咲さんは綺麗で優しくて、僕にとって憧れの大人の女性だった。
まさにその頃の美咲さんが僕の目の前にいる。
「いつから僕の事を?」
「いつって言われても…難しいよ」
「僕は知ってるよ」
「どうしてわかるの?」
「わかるんだから仕方ないよ…。それより美咲さんの夢を聞かせてもらえますか?」
「私の夢…」
僕が何も言わず見つめていると、美咲さんは僕から視線を反らした。
「美咲さんは17歳の時から佐藤家に仕えて、その後も娘の遥香の母親代わり…母親としてずっと一緒にいてくれた。美咲さんは人生を僕たちに捧げてくれた。その代償として犠牲にしてきた物も多かったと思うんだ。夢とかやってみたい事とか、行ってみたい場所とかあるでしょ?」
「なっ‥ないよ」
美咲さんは僕を真っ直ぐ見られないでいた。
「あのさっ…言ってもらわないと、こっちだって何も言えなくなっちゃうでしょ…」
「やりたい事も行きたい場所も、特にないよ」
「それなら…世界で一番大好きな人と一緒に暮らして、ご飯を作ってあげたり、掃除洗濯をしてあげたり、何でもしてあげたいっていう夢は叶ったの?」
「どっ‥どうしてそれを?」
「叶ったんですか?」
「紺野くん…もしかして記憶が?」
「どうなの?」
「えっ!? かっ‥叶ったよ」
「だったら、今度は日記に新しい夢を書いときなよ。大好きな人と死ぬまで一緒に生きてくってさ…」
「うん、わかった。書いとくよ」
「よし! あのさぁ…恥ずかしいから1回しか言わないから、しっかり聞いてくれよな」
「うん…」
「ずっと傍にいてくれてありがとう。本当に感謝してる。そして高校の時から僕だけを好きでいてくれてありがとう。僕も好きだ。大好きだよ、仲村有紀…。僕と結婚してくれるかな?」
「はい…」
僕は彼女の唇にキスをした。
今度のキスは教室で起きた、あの振り向きざまの不慮の事故などではなく、想い合っている者同士が許された愛の結晶だった。
そして僕は彼女を力いっぱい抱きしめた。
もう2度と離れる事がないように…。