夕食を囲みながら、侑が思い出したように遠くへと視線を向けた後、徐にジーンズのポケットから一枚のチラシを取り出し、テーブルの上に広げた。
「お前も大分、ラッパを吹く感覚を取り戻してきたようだし、コンクールとか舞台に上がってみないか?」
「えぇ!? いきなり過ぎません?」
瑠衣はテーブルの上に置かれたチラシを手に取り、凝視している。
侑がハヤマの銀座旗艦店に行った時に見つけた、日本トランペット指導者協会が主催するコンクールのチラシだ。
日程を見ると、六月の中旬に開催されるらしい。
課題曲は無しの自由曲だけのコンクールで、チラシに書いてある内容を見ると、主に初級から中級者、ブランクがある人向けのコンクールのようだった。
「目標がある方が、練習にも張り合いが出るというものだ。ただ、やはりこういうコンクールだと、ピアノの伴奏者が必要になってくるが、お前の知り合いでピアノを弾ける人はいるか?」
「いえ、いません。音大時代も、試験でピアノの伴奏を頼む事はありましたけど、試験が終わればそれっきりだし、ピアノ科で仲のいい人とかいなかったし」
「…………そうか。なら、俺の方で何人か声を掛けてみるとしよう。気軽、と言ったら語弊があるが、気負わずに参加してみたらいい」
「わかりました。ありがとうございます」
(うわぁ…………コンクールだって……!)
何年か振りにエントリーするコンクールに、瑠衣の胸が高鳴っていくのがわかる。
そのせいか、夕食がなかなか進まない。
お腹いっぱい、胸いっぱい、と言ったところか。
「初級者から中級者向けのコンクールやコンテスト、もっと増えたらいいよな。やはり、どこかで練習の成果を発揮できる場所があった方が、更に上達もするだろうしな」
侑の穏やかな眼差しが瑠衣に注がれる。
「私も……そう思います」
瑠衣は彼に見つめられているのが恥ずかしいのか、俯き加減で黙々と食事をし続けた。