テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2,153
#狂愛
柏木さくら
1,634
#ホラー
天野 夢縁
359
#タイムリープ
卵焼き
222
「204……」
俺は紙を握りしめた。
住所はない。
建物の名前もない。
数字だけ。
「部屋番号じゃない?」
美咲が言う。
「だとしたら、建物を探さないと」
俺はポケットからスマホを取り出す。
検索しようとして、指が止まった。
「ダメだ」
「検索履歴も見られてる可能性がある」
美咲がうなずく。
「図書館なら住宅地図があるかも」
「ネットを使わずに探せる」
翌朝。
開館と同時に図書館へ入る。
住宅地図を広げる。
「204号室がある建物なんて山ほどあるよ……」
俺がため息をつくと、美咲があるページで手を止めた。
「これ」
指差したのは古い雑居ビル。
**蒼葉システム**
昨日、Rの動画に映っていた会社だった。
「同じ名前……」
ビルの二階。
204号室。
小さく書かれている。
「偶然じゃない」
俺は地図を閉じた。
「行こう」
夕方。
ビルは駅前から少し離れた場所にあった。
築四十年以上。
壁の塗装は剥がれ、看板も色あせている。
「本当にここ?」
「たぶん」
エレベーターは故障中。
階段を上がる。
二階。
廊下は薄暗い。
203。
その隣。
204。
古いプレートだけが掛かっていた。
会社名はない。
「開いてる……」
ドアが少しだけ開いている。
俺はゆっくり押した。
ギィ……
部屋の中は静かだった。
机が二つ。
パソコンが一台。
コピー機。
どこにでもある小さな事務所。
「誰もいない?」
美咲が周囲を見回す。
生活感はある。
湯飲み。
カレンダー。
観葉植物。
でも人だけがいない。
その時だった。
カタッ。
奥の部屋から音がした。
俺たちは顔を見合わせる。
ゆっくり近づく。
ドアを開ける。
そこには、一人の男性が椅子に座っていた。
スーツ姿。
三十代くらい。
俺たちを見ると、ゆっくり立ち上がる。
逃げる様子もない。
驚いた様子もない。
「神谷さんですね」
落ち着いた声だった。
「……誰だ」
男は少しだけ笑う。
「安心してください」
「私は組織ではありません」
その言葉を聞いた瞬間、美咲が前へ出た。
「証拠は?」
男は黙ったまま、社員証を机に置く。
そこには、
**『蒼葉システム データ管理部』**
と書かれていた。
「私は、この会社で働いていました」
「”働いていました”?」
「昨日、辞めました」
部屋の空気が変わる。
男は静かに続けた。
「正確には」
「逃げてきました」
俺は思わず息を止める。
男は机の引き出しから、一冊の分厚いファイルを取り出した。
表紙には赤いスタンプ。
**《極秘》**
「これが組織の名簿です」
俺が手を伸ばそうとした、その瞬間。
男はファイルを引っ込めた。
「ただし、一つ条件があります」
静かな口調のまま、俺を見つめる。
「神谷さん」
「あなたは、人を見捨てられますか?」
意味が分からない。
「え?」
男はファイルを机に置いたまま言った。
「この名簿を警察へ渡せば、多くの人を救えるでしょう」
「ですが、その代わりに」
一拍置く。
「今夜、一人だけ見捨てることになります」
「誰を……?」
男は俺の目をまっすぐ見た。
そして、ゆっくり名前を口にした。
「参加者番号31」
部屋の空気が一気に重くなった。
(第三十六話へ続く)
コメント
1件
うわ、この展開……もう心臓バクバクです💔 蒼葉システムの社員がまさか名簿持って逃げてくるなんて思わなかったし、「人を見捨てられますか?」って問いかけが怖すぎるよ。しかも指名された番号31ってまさか……もう続きが気になって仕方ない! るしゅさんの重くて静かな空気の積み方、本当に巧いなあって感動しました。次の話、読みますね。