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第38話:どこにでもいる軍長
朝の配信
街頭ビジョン。
銀と緑の制服を着た国軍のパレードが流れた後、パーカー姿の“イラスト”が映し出された。
「市民のみなさん──安心してください。ネット軍のリーダーは“どこにでもいる市民”です」
アナウンサーの声は柔らかく、背景には「ネット軍はあなたの隣に」の文字。
渋谷の交差点を歩くミウは、淡いラベンダーのブラウスにモカのスカート。イヤリングが朝日に光っていた。
隣のまひろは水色のパーカーにベージュの短パン。無垢な瞳でビジョンを見上げた。
「ねぇミウおねえちゃん……リーダーって本当にいないの? どこにでもいるって、どういうこと?」
ミウはふんわりと微笑んだ。
「え〜♡ それはねぇ……“みんながリーダー”ってことなんだよ。安心でしょ?」
コメント欄には「ネット軍ありがとう」「どこにでもいるから安心」「監視は平等」が並んだ。
裏の現実
地下のモニタールーム。
巨大スクリーンには数千のログが流れ、その中心に緑のフーディを羽織った男が立っていた。ゼイド。
フードの奥から覗く瞳は冷たく、端末に映るカナルーンを打ち込んでいた。
「モニター・ルート → オール. スコープ=ワールド」
部下たちは縁メガネに灰色の制服。背筋を正して声を揃える。
「軍長──命令を」
ゼイドは端末から目を離さず、静かに告げた。
「命令はない。俺はどこにでもいる、そう伝えろ」
夜の街
新宿のバー。
入口には「市民ランクB以上」と書かれ、モニターには笑顔のアニメ風キャラクターが「ネット軍はあなたの隣に♡」と囁いていた。
制服姿のまひろは、グラスのソーダを握りながら無垢に言った。
「ぼく……本当にリーダーがいないのかな。だって全部、自然に動いてるみたいだし……」
ミウはカーディガンの袖を直し、ふんわりと笑った。
「え〜♡ それが安心ってことなんだよ。リーダーがいないのに守られてる。素敵でしょ?」
結末
地下。
ゼイドはモニターに映る“市民の安堵の笑顔”を無表情に眺めた。
「俺は軍長だ。だが表には出ない。
どこにでもいる、そう信じさせた時点で、俺は世界のどこにでもいる」
無垢な問いとふんわり同意、その裏で“ゼイド”はネット軍の頂点に立ちながらも、存在を霧のように薄め、市民の心の中に溶け込んでいった。