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侑と瑠衣が入籍した一ヶ月後、二人は新婚旅行と侑の両親の墓参りを兼ね、オーストリアのウィーン郊外の小さな教会にいた。
瑠衣の体調も快方へと向かい、主治医でもある朝岡の許可も出た事から、以前から行ってみたいと彼女が話していたオーストリアへの渡航が、ようやく叶った。
二人を歓迎するかのような雲一つない青空。
教会周辺には、濃淡の緑が豊かな田園風景が広がっている。
チャコールグレーのスーツに身を包み、花束を抱えている侑とネイビーのシンプルなワンピースを纏った瑠衣が、教会敷地内の墓地をゆっくりとした足取りで歩いていく。
二人は『Gen Kyono & Erika Kyono』と刻まれている石造りのプレートの前に立ち、彼は持参した白百合の花束を墓前に供えた。
「…………親父、母さん。俺にも愛する女性と巡り会え、先月結婚した。これから先、瑠衣と二人で一緒に幸せになるから、天国から見守っていてくれ」
侑が亡き両親に語りかけ黙祷を捧げた後、瑠衣を促す。
「お義父さん、お義母さん、初めまして。妻の瑠衣です。侑さんとご縁があり、先月結婚しました。二人で一緒に幸せになります。見守ってて下さい」
彼女も侑に倣い黙祷を捧げると、彼は瑠衣の小さな手を取った。
二人の間に柔らかな風が吹き抜けていき、侑の両親が『いつまでも仲良くお幸せに』と言っているような気がした。
「瑠衣。これから二人だけの結婚式を挙げよう」
「え? 結婚式?」
「ああ。親父と母さんの墓前に報告できた。牧師も列席者もいないが、この教会で俺たちが夫婦になる事を改めて誓う、二人きりの結婚式だ」
侑は両開きの木製ドアを開けて教会の中に入り、瑠衣の指を絡めさせながら手を繋いで立ち止まる。
ドーム型の高い天井と、両端に装飾されている色彩豊かなステンドグラスから陽光が降り注ぎ、バージンロードに色鮮やかな影が映し出されている。
祭壇中央の聖母像が、穏やかな表情で二人を迎えてくれたように思えるのは気のせいだろうか。
侑は一歩踏み出し、バージンロードの上を歩き始めると、彼の少し後方を瑠衣も節くれだった手を離さずに歩く。
聖母像の前に立った二人は向かい合うと、侑がスーツの胸ポケットから真紅の小箱を取り出し、瑠衣の前で開けて見せた。
「こ……これって…………結婚指輪……」
二つ並んで入っているマリッジリングは、ごくシンプルなデザイン。
五ミリ幅のプラチナの平打ちに、縁にはダイヤカットが控えめに施され、小粒のブラックダイヤモンドとピンクダイヤモンドがそれぞれ埋め込まれている。
侑は傍にある聖餐卓の上に小箱を置き、小さな指輪を手に取ると、瑠衣の左手薬指にはめていく。