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「……んん、よく寝た。ってあるべ、アルベド!?」
目が覚めると目の前には綺麗な紅蓮の髪があった。どうやら私は彼に抱きしめられているらしく、慌てて起き上がろうとすると何故か動けない。
と言うより、腰に回されている腕に力が込められて身動きが取れなくなっている。
何で? 昨日は後ろから抱きしめられていたのに? いつの間に?
と、朝からぐるぐると思考が高速メリーゴーランドのごとく周りショートしかけ、顔を背けようにも背けられない状況で、私はアルベドの顔を正面から間近で見ることとなり、顔を赤くする。そりゃ、もう攻略キャラなだけあって顔はいいからね!
すると、私が起きたことに気が付いたのか彼は薄らと目を開いた。そして、私の方を見ると嬉しそうな表情をして頬を緩ませる。
(……っうわぁー!)
絶対寝起きが悪いと思っていたので、この反応には驚いた。
けれど、そんな柔らかい表情は一瞬にして崩れることとなる。アルベドは私がはくはくと口を動かし何も言わないことに機嫌を悪くしたのか、眉間に皺を寄せて私を見つめてきたのだ。
(ちょ!? 待ってよ! 何その眼力ッ!? 怖いんだけど!?)
そう思っていると、アルベドの顔が近づいてくる。
(キスされる―――……!?)
「朝から、ぶっさいくな顔してんな。おはよう、エトワール」
「ほげぇ!?」
そういって、私の頬を愛おしそうに撫でるアルベドに思わず変な声が出てしまった。
そして、そのまま固まっていると、私の顔を見て笑い出した。
果たして、目の前にいる彼は本当に私が知っているアルベド・レイなのだろうか。
私の中の彼は、危険人物、暗殺者で口が悪くて態度もでかい、でも設定的にはツンデレで、でも俺様で……そんなことを考えていると、ふと、彼の視線とぶつかった。
その時、私は何かを感じ取った。それは、今まで感じたことのない感情だった。
今、私を映しているのは確かに彼なのに、彼が全くの別人に見える。彼の周りにキラキラとした光の粒子が飛んでいるように。
(って、彼は闇魔法の使い手なんだから光が飛んでいるわけないじゃない! 見間違いよきっと!)
と、私は頭をブンブンと振って自分の考えを否定する。
そうして、やっぱりこれは夢なのではないかという結論にいたり私は絶対そうだと、口を開く。
「その、ね寝ている間に……何かあったの?」
「何かって何だよ」
「だって、アルベド……アルベドってそんな優しくないし、笑わないと思う……から」
私がそういうとアルベドは目を細める。
それから、チッと舌打ちを鳴らし身体を起こすと欠伸をしながら背筋を伸ばしやれやれと言った感じに私を再度見た。
「お前本当に失礼だな。俺の事やっぱり、異常者とか何とか思ってるんだろ」
「べ、別にー」
本当はめちゃくちゃ思っていたけど。とは言えず私は明後日の方向を向きながら、答えた。
そんな私を見てか、アルベドは呆れたようにそうかよ。と短く返し、きっとこの後ファナーリクが朝食を持ってくるだろうからと、髪ぐらい整えとけとぶっきらぼうにいわれてしまった。当の本人は鏡の前に行きその長い紅蓮髪をといて高い位置で結んでいた。
やっぱり、目に行くその紅蓮の髪に私は目が離せなくなりじっと見つめてしまう。
すると、視線を感じたのかアルベドはこちらを振り返る。
「何だよ。俺の事じっと見て」
「え、いや……えっと、髪が綺麗だなって思って」
私は、素直に彼の髪について綺麗だと口にした。すると、アルベドは自分の髪の毛と同じぐらい顔を真っ赤にし、口元を手で覆う。
ピコンという機械音が鳴ったので、彼の頭上の好感度を確認すると34を刻んでいた。ここ最近で彼の好感度はかなりのペースで上がっている。確かブライトも34かそこらだったはずだから、マイナスに一度落ちたとは言えアルベドも上がりやすいのではないかと思ってしまう。
上がりやすいイコールチョロいとか思ってしまいそうだけど、私は偽物悪役聖女のエトワールだからそれは気のせいだろう。きっとヒロインならもっと簡単に上がっていたはずだ。と思いつつ私は、顔を真っ赤にしてこっちを見ているアルベドを見つめ返した。
だって、本当に髪の毛だけは綺麗だったから。
暗殺者のくせに目立つ綺麗な長い紅蓮の髪。まるで炎のような輝きを持つ美しい紅蓮の髪は、私にとっては少しだけ羨ましいものだった。だって、エトワールの髪は綺麗な銀髪だけど彼の前では白髪のように思えてしまうから。それぐらい圧倒的なオーラというか美しさを放っているのだ。
そんなことを考えていると扉の向こう側から声がかかる。ファナーリクの声だ。
「お坊ちゃま、聖女様朝食の準備が出来ました」
「おお、分かった部屋の前にでも置いておいてくれ」
「ですが、お坊ちゃま」
「聞えなかったのか、そまま置いておいてくれ。今、エトワールの奴が着替えてんだよ」
「は、はあッ!? き、着替えてないですけど、全く全然!」
アルベドがそういうと、扉の向こうのファナーリクはそれは失礼しました。とワゴンらしきものを置いてそそくさと部屋の前から去って行き、扉の前の気配は消えてしまった。
ふぅ……と息を吐いたアルベドは朝食を取ってくるからと部屋を出ていこうとするが、私は思わず彼を呼び止めてしまった。
「何だよ。俺は腹減ってんだけど」
「ちょ、ちょっと、さっきのはないんじゃない!?」
「さっきのってなんだよ」
「だから、私がきが、着替えてるから……って、あんなの誤解されちゃう!」
「ふーん、誤解されたら不味いことでもあんのかよ」
と、アルベドはニヤニヤしながら私に聞いてくる。
勿論、誤解されたらまずいことがあるわけではない。とは100%言い切れないけれど、それでも私とアルベドが一緒にいてそれで私が服を脱いでいたとなると、誤解されかねない。何とはいわないけど。
私にだって多少の羞恥心はある。
確かに、恋人はいたのに恋人らしい事も男女の関係だっていう認識も甘かったかも知れない。でも、そういう関係について何も知らないわけでもないし、一応は恋人がいたのだからそういう甘い雰囲気というかは味わってきた。何も出来ていないけれど。
なのに、恋人でもない人と一夜をともになんて……! 喪女、処女で、二次元オタクのコミュ障なのよ! 私は!
こんな展開、創作の中でしか見たことが無い……! いや、これは乙女ゲームの世界だけど。と突っ込んでいるとアルベドは私の反応を見てさらに面白そうに笑う。
ああもう……! やっぱりコイツ嫌い!
さっきのは絶対演技だとそう思いながら、朝食を取りに行った彼を見送ると私は再びため息をついた。
この世界に来てからというものの、私は本当に散々だと思う。確かに上手く事が運んだことは何度か会ったけど……
そう思っていると、朝食のワゴンをおしながら帰ってきたアルベドは、私の分だとあの何十万もする机の上に置き自分はせかせかと食事を取りだした。
私は後でいいやと思ったが、ぐううぅと部屋に響くぐらいの大きな腹の音がなってしまったため恥ずかしくなり、席に着き彼と向かい合う形で食事を取ることになった。食事は、パンにスープ、サラダと至って普通のメニューだったのだが正直、あまり味を感じなかった。
というのも、こうして誰かと食べることなど全く人生の中でなかったし、一応攻略キャラというイケメン枠に入っているアルベドを前にどんな顔をして、また何処を見て食べれば良いか分からなかったのだ。
堂々としていれば良いものの、こういう時に限って可笑しな行動を取ってしまうもので、二三回スプーンを落としてしまった。これでは、マナーが悪いと思われてしまう。
だが、アルベドはそんなことを気にする様子もなく食べ終わると私に話しかけてきた。
一体何を言われるのか、と身構えていると彼はこう言った。
「なあ、エトワール。星流祭……一緒にまわらねえか?」
と、金色の瞳は私を捉え眩いぐらいに輝かしく光っていた。