テラーノベル
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銚子は、これまでの経緯をひよりに説明した。
自分が八幡保育園の園長ではないこと。
そして、有栖を連れ出すために嘘をついていたこと。
そしてこれは、ひよりの身を案じた宗太郎からの依頼であった事。
全てを包み隠さずに話します。
話を聞き終えたひよりは、ようやく状況を理解したように呟く。
「だから有栖を?」
「はい・・・ですが迂闊でした」
銚子は申し訳なさそうに目を伏せた。
「有栖ちゃんは猫の霊からあなたを護っていた
それを知らず連れ出してしまい、申し訳ありません」
「いえ・・・」
ひよりは小さく首を振った。
だが、込み上げてくるものを堪えきれなかったのか、その声は震えていた。
「でも・・・ぐすっ」
ひよりは目に涙を浮かべながら、腕の中の人形を強く抱きしめる。
「有栖が・・私を・・・」
その姿を見つめていた銚子は、しばし沈黙したあと、表情を引き締めた。
「そして本題はここからです」
「本題?」
「この部屋に棲みつく猫の霊
これだけの数は、はっきり言って異常です」
信愛が確認するように口を挟む。
「10匹以上って言ってたよね?」
「ええ・・・」
ひよりの顔から、わずかに血の気が引いた。
「そ、そんなに!?」
銚子は静かに頷くと、ひよりの反応を窺いながら続けた。
「ひよりさんは『猫の祟りは七代祟る』
という言葉をご存知ですか?」
「猫の祟り?」
ひよりは聞き慣れない言葉に首を傾げる。
信愛も眉をひそめた。
「猫の祟りって何?」
「猫を粗末に扱ったり、殺したりすると
その祟りが子孫にまでわたって降りかかる
という、古くから語られてきたとされる言い伝えよ」
「殺したり?」
ひよりの表情が一変した。
「私、そんな事してませんよ!?」
「ご家族などは?」
「家族?」
「ご両親やご兄弟、親戚の
方々にはいらっしゃいませんか?」
「いや、家族にも猫を殺したりなんて──」
そこまで言いかけた瞬間だった。
ひよりの目が大きく見開かれる。
まるで、記憶の奥底に押し込めていた何かを突然思い出したかのように。
銚子はその変化を見逃さなかった。
「何か思い当たる事でも?」
銚子の問いかけに、ひよりは何かに躊躇っているのか、俯いたまま口を閉ざす。
「ひよりさん?」
信愛が心配そうに声をかける。
銚子はそんなひよりを真っ直ぐ見つめた。
「これはあなたを救うためでもあるんです」
「わ、わ──」
ひよりは震える唇をゆっくりと開いた。
「私の叔父です・・・」
「叔父?」
信愛が聞き返す。
「ひよりさんの叔父さんがどうかされたんですか?」
ひよりは人形を抱く腕に力を込めた。
そして、重い記憶を掘り起こすように語り始める。
「今から23年前の2003年に
叔父さんが、とある事件を起こしたんです」
「とある事件?」
「狗頸猫虐待事件という
事件があったのをご存知ですか?」
「猫虐待事件?」
信愛が眉をひそめる。
銚子は、その事件名に聞き覚えがあるようだった。
「確かそれって、とある男性が6ちゃんねるで、猫の虐待画像をリアルタイムで投稿していた事件ですよね?」
銚子の問いかけに、ひよりは表情を曇らせながら頷いた。
「は、はい・・・」
「そんな事件あったの?」
信愛は初めて聞いたらしく、驚きを隠せない。
銚子は静かに説明を続ける。
「野良猫を拾ってきた男性が、6ちゃんねるのペット嫌い板で、猫の尻尾や耳をハサミで切ったり
針金で首を締めたりしている画像を投稿して、スレッド内で虐待の生中継をしていた事件よ」
「なに・・・それ」
信愛の顔から、瞬く間に血の気が引いていく。
「そんな酷い事件が?」
「当時はマスコミでも大きく
取り上げられて、かなりの騒ぎだったわ」
「すごい事件なのは分かったけど
なんでそんな事件を、ひよりさんの叔父さんが?」
信愛の疑問に、ひよりは苦しそうに目を伏せた。
「叔父は重度の猫アレルギーで・・・」
「重度?」
「はい・・蕁麻疹や、酷い場合は呼吸困難に
なってしまうから、呼吸器が手放せない
生活を強いられてたらしいんです」
「まさか、それが理由で猫を?」
信愛の言葉にひよりは小さく頷く。
「昔から口癖のように
『猫が居なかったら』って言ってたらしいの」
「なるほど・・・」
銚子は、これまでの話を頭の中で繋ぎ合わせていく。
「その祟りが、ひよりさんの代に受け継がれたって事ね」
その言葉を聞いた信愛は、納得できないように眉をひそめた。
「確かに身勝手な理由で猫の命を奪った
叔父さんは悪いけど、ひよりさんには関係無いでしょ?
そんなのまるで・・・八つ当たりじゃん」
「でも、殺された猫の無念は晴れなかったんでしょうね」
銚子の声が、静かに部屋へ落ちる。
「それに酷い殺し方をすればする程に
猫の呪いはより強くなると言われてるからね」
「そうか・・・」
信愛は複雑そうに俯いた。
「殺した挙句にネットで見せ物にしたから・・・」
「おそらく、そんな人間のエゴで命を奪われてしまった
猫たちの怨念がこの家に集まってきてるのね・・・」
重苦しい沈黙が流れる。
信愛は猫たちの気持ちも分からなくはなかった。
理不尽に傷つけられ、命を奪われ、死後もなお、その最期を大勢の人間に見世物として消費された。
その怒りが消えないのも無理はない。
しかし、このまま放置することもできなかった。
「猫の気持ちも理解できるけど
このまま放っておくと・・・」
「太刀打ち出来ない怪異になりかねないわ」
「か、怪異?」
怯えるひよりに、銚子は真剣な表情を向ける。
「非業の死を遂げた猫の霊は、やがて集合体となって
猫又や化け猫といった知性を持ち、人を殺めかねない
怨霊になる可能性が高いと古くから言われてます」
そして、さらに言葉を続ける。
「そうなったら私たちだけでは
どうする事もできなくなってしまいます」
銚子の声には、これまでにない緊張感が滲んでいた。
「ですから・・・そうなる前に
除霊する必要があるんです」
ひよりは不安そうに人形を抱きしめながらも、やがて覚悟を決めたように頷いた。
「わ、分かりました」
そして深く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「なら、信愛?これを部屋の四隅に置いてくれる?」
銚子は信愛にお清めの塩を手渡す。
「わかった!」
信愛は言われるがまま、銚子が塩を受け取り四隅に置く。
コメント
1件
×××さん、最新話読みました…🥀 ひよりが有栖をぎゅっと抱きしめるシーン、すごく切なかったです。自分のこと守ってくれてたんだって気づく瞬間、泣きそうになりました。それにしても、まさか叔父さんの事件がここに繋がるなんて…23年前の猫虐待事件、重すぎます。銚子さんの説明で一気に緊張感が増して、このあとどうなるんだろうってドキドキしてます。除霊、うまくいきますように…!
#普通
野々さくら
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ありあ
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