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「——うぅぅぅ……」
「そう悲しまずに、トウヤ様」
ニコニコ顔のルナールが、両手で顔を隠す柊也に声をかける。結局柊也の訴えなど完全に無視し、体格差があるのをいい事にお姫様抱っこをして半透明な螺旋階段をルナールはズンズン上がって行った。十階分はある長い道程なのに、息を切らす事も無くルナールが足早に階段を登る。柊也はそれを肌で感じ『体力の化け物か?』と思うも、二度に及ぶ姫抱っこでしょげた気持ちが回復せず、結局床に下ろして貰えるまでの間ずっと顔を隠したままだった。
「到着しましたよ、トウヤ様」
「……あり、がと」
眉間に皺を寄せつつ頰を赤く染める柊也を、ほくほく顔のルナールが床に下ろす。
「お疲れ様でした。トウヤ様、ルナール様」
鉄製の大きな扉は開かれたままになっており、その中心にはリスの尻尾がある巫女が頭を下げて待機していてくれていた。
(抱っこされてたの、見られた?)
見られていたとしたら恥ずかしい!と柊也は内心焦ったが、巫女は穏やかな表情のまま頭を上げ「では、次の場所へ案内致します」と言いながら先に歩き出した。
(見られてなかったのかな?良かったー!)
ほっと息を吐き出し、柊也とルナールが巫女の後ろをついて行く。そんな二人の前を歩く巫女は、微笑ましい光景を見られた事でほころぶ口元を白い袖でそっと隠した。
巫女の案内により、神殿内にある祭壇の間に向かった二人はウネグと合流し、豪胆な見た目とは正反対の美しい所作で儀式を進行していく様を見届ける事となった。
薄暗い室内で蝋燭の灯だけを頼りに儀式が行われる。白い司祭服に身を包んだウグネが祭壇の前に立ち、オペラ歌手を彷彿させる美声で巻物に書かれた祝詞を読み上げていく。要所要所で鳴らされる鈴からは光が溢れ出し、その光が黄色い鳥の様な形をしながら室内を楽しげに飛び回る様子は圧巻としか言いようがないものだった。
鈴が鳴るたびに鳥が増え、天井へと光の鳥が羽ばたいては、少しずつ消えて行く。魔法というものはこれほど美しいものなのかと思いながら、柊也はウネグの一挙手一投足に見惚れていた。
「——ま、トウヤ様。終わったみたいですよ?」
ルナールに声をかけられ、柊也がハッと我に返った。厳かな雰囲気にスッカリのまれ、集中し過ぎていたみたいだ。
「あれ?ホントに?……ごめん、ギャップの凄さとかで色々魅入ってたみたいだや」
感嘆の息を吐き出す柊也の方へ、儀式の後片付けを巫女達へ指示し終わったウネグがやって来た。
「それは褒め言葉と取ってもよろしいですかな?」
はっはっは!とウネグが豪快に笑った。
均等に並び置かれた木製のベンチの最前列に柊也とルナールが座る。柊也の基準的には大人が四人は座れる席のはずなのだが、柊也達だけで精一杯になっている椅子には当然に様にウネグのスペースは無い。
「綺麗でした、とっても。僕らのためだけにこれだけの儀式を行って頂き、ありがとうございました」
感情の赴くまま、愛らしい笑顔で柊也がウネグに対し微笑みかける。その顔を見てウネグは一瞬目を見張ったが、すぐに豪快な笑顔に戻った。
(なるほど、なるほど。【純なる子】とはこういう事か)
正直『取り敢えず仕事しないといけないし、やっておくか』くらいの気持ちでやった儀式でこうも感動してもらえ、ウネグがほんわかした気持ちになった。
「その様に喜んで頂けると、とても嬉しく思いますぞ。もうこんな儀式などすっかり当たり前になっていて、誰にも『綺麗だ』と褒めてはもらえませんからなぁ」
そう言いながらウネグは柊也の前に跪き、懐から小さな木箱を取り出て彼の手の上に置いた。
「これは?」
開けても?と言いたげな顔を柊也がウネグに向けると、彼が頷く。ウネグが持っていた時は『小さい木箱』だったように見えたのに、実際に柊也が持ってみると両手で持たねば落としそうだ。
大きい熊が前に座っているような威圧感はまだあるが、初めて会った時ほどは怖くない。慣れてきたというのもあるだろうが、さっきの儀式を見られた事が大きいだろう。
ウネグの視線を感じつつ柊也が箱を開けると、中には銀色と金色のブレスレットが二つづつ紅い布製の台座に置かれて入っていた。銀の方はとてもシンプルで女性物のように細く、日常的に使えそうな見た目をしている。金色の方も銀と同じく輪の部分は細めなのだが、さくらんぼサイズの鈴が沢山ついており、腕につけると動くたびに煩そうだった。
「銀色のブレスレットは普段お使い下さい。不純物が多く含まれている為、トウヤ様のお力を抑え込む事が出来ます。金のブレスレットはその逆で、お力を増幅する効果があります。鈴の音が届く範囲まで、一気に呪いを解く事が出来るでしょう」
「こんな道具で、そんな事出来るんですか。……すごいな」
「お手伝い致しますね」
柊也の返事を待つ事なく、ルナールは腕を取り、銀色のブレスレットを柊也の腕にはめた。離す前にキュッと手を掴み、親指でスーッと軽く肌を撫でる。右手、左手と両腕共に装身具をはめると、柊也の腕を元の位置へ名残惜しげに戻した。
「あ……ありがとう」
「どういたしまして」
ニコリと笑い、ルナールが頷く。柊也は頰を軽く染めたまま右腕を持ち上げて、銀色のブレスレットをまじまじと見詰めた。一センチ程しかない細いブレスレットをよく見ると、二匹のドラゴンの彫り物が入っており、番のように寄り添っている。片方には黒い小さな宝石が瞳に埋め込まれ、もう一匹の瞳にはダイヤモンドの様な石がはまっていた。
「……こんな高かそうな物、借りてもいいんですか?」
高価な装飾品など見るのも身に付けるのも初めてな為、柊也が『コワシタラドウシヨウ……』と少し震えている。損傷したり、無くしても弁償など出来る当てがないので、身に付ける事自体が正直怖い。
「それらはプレゼントらしいので、トウヤ様の物でございます」
「——は⁈」
『誰から?何で?いや、流石にこんな高価な物は受け取れない!』と柊也が態度だけで慌てていると、ウネグが彼の髪をクシャッと乱雑に撫でた。
「なーに、気にする事はございません。宝石など下々に配り歩ける程持っている方からの贈り物ですからな」
『【純なる子】は等しく全ての者が傅くべき存在とやらはいったい⁈』と柊也は思ったが、父のような豪快な扱いに、かえって安心してしまった。
「お断りしてお返しするよりは、受け取って有効活用するべきかと思いますよ」
ルナールにもそう言われ、柊也が渋々頷く。そんな彼を見て、ルナールはそっと安堵の息を吐いた。
「しかし……何故トウヤ様の到来を【彼の方】がこうも早く知っていたのか……はてさて」
ウネグがボソボソと呟く。首を傾げたりもしていたが、柊也は複数のブレスレットを「はぁぁぁぁ、めっちゃ細かいですね。どうやって彫ってるんだろう?」と言いながらまじまじと見ていて、ウネグの呟き声を聞いてはいなかった。
周囲を見渡し、ウネグが自分達だけかを確認する。厳かな雰囲気の漂う礼拝室に他には誰も居ない事を確信するとウネグは真顔で「——トウヤ様」と名を呼んだ。
「少し、お話ししておきたい事が。出来れば、トウヤ様と二人でお話ししたいのですが……」
「私の事は居ないものと思って頂いて結構ですよ。私はトウヤ様の不利になる様な行為は一切致しません」
今日会ったばかりの相手に何故こうも忠義を示すのかと、ウグネは不思議に思った。だが彼からは嘘を言っている感じは全く無い。むしろルナールから感じ取れるコレは……過剰なまでの『好意』だ。
「わかりました。トウヤ様は、ルナール様の立会いのもとでも構いませんかな?」
「全然問題無いですよ」
柊也のルナールに対する無条件の信頼感に対してもウネグは驚いたが、まぁ【純なる子】ならば当然かと疑問を感じる間も無く返答を受け止めた。
「重たい話では無いのでご安心を。ただ、此処だけの秘密にして頂きたいだけなので」
「秘密に、ですか?」
何をだろうか?と、柊也は息を飲み込んだ。
「【孕み子】の『呪い』を、私は今こそ……トウヤ様に、『完全に』解いて頂きたいのです」
ウネグが一呼吸開け、言葉を続ける。
「大半の者達は、抑え込む事で得られる一時の繁栄を望んでおります。ですが、それではこの先の千年後、二千年後にもまた同じ悲劇が繰り返されてしまう。『呪い』に泣き崩れる者を多く見てきた身としては、是非とも『完全なる解除』を望んでしまうのです。だがしかし!私に同調する者は上に立つ者になるほど、まずほとんどおりませぬ。故に、周囲にはこの事を内密にしたまま、最後の最後で頼みたい。完全に解いた瞬間元の世界へと戻れば、抑え込みを推奨する者から恨みを買っても逃げ果せますので」
「な、なるほど」
(ルナールと同じ考えの人が他にも居たのか)
ルナールの意見もウネグの意見も筋が通っていて、柊也はその線でこの問題を解決していくと同意する事にした。
ルナールの方をチラッと見て、柊也が『いいよね?ルナールと同意見だし』と視線だけで問い掛ける。話の流れから意図を察したルナールは、頷いて応えた。
「わかりました、その点は秘密裏に動きますね」
任せて!と胸を叩く柊也を見てウネグが満足気に微笑む。
「ルナール様も是非、内密にすると約束して頂きたいのですが良いですかな?」
「えぇ、もちろんです。全てはトウヤ様の決意のままに」
「お二人共、ありがとうございます。出発は準備が出来次第即座に行い、直接村々を回った方がよろしいかと。異世界から【純なる子】が到来した件に関して、城への報告は私から致しましょう。王城内はほぼ抑え込み派しかおりませんからな、出来るだけ行かぬ方が、面倒事を避けた方がよろしいでしょう」
「賢明な判断ですね。ですが、得られるのが国の繁栄だとあっては、王城内の考えは……まぁ当然かと」
「そうだね……」
ルナールの意見に柊也が残念そうな顔で俯いた。幽閉されている王子を最も間近に見ていながら、望むのは『国の繁栄だ』という城の者達に少しの苛立ちさえ感じてしまう。
「では、一旦応接間へお戻り頂き、早速旅のご準備を!」
スクッと立ち上がり、ウネグが大きな声をあげた事で柊也達が慌てて耳を塞いだ。ルナールが頭の獣耳を押さえた仕草を見て、柊也がニヤける。
(あー可愛いなぁ、体は大きいのに可愛いとか、獣人ズルし!)
流石に何を思って柊也がニヤけているのかルナールには伝わりはしなかったが、柊也が楽しそうだというだけで心がほっこりした気分になった。