コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ウウッ! ウニャウッ!!」
「シーニャ、岩肌にも甲殻類がいるぞ! 爪で全て引き剥がせ」
「ウニャ! アックは足下のウネウネを斬りまくって欲しいのだ!!」
「任せろ!」
素早さと身のこなしに長けるシーニャには先制攻撃を任せている。海底ダンジョンのせいか森や山で見かけるゴブリン族は見当たらない。ここにいるのはせいぜいナメクジだとか、コウモリとカニ、それと凶暴なタコくらいだ。
鋭いハサミを持つカニが複数見られたが、シーニャには丁度いい相手だった。おれは両手剣フィーサを手にして取りこぼしの敵を斬る役目――のはずだったが、足下にいるのは見事に軟体生物ばかり。そのせいでフィーサはわがままを言いだした。「だって嫌だもん」などと言われたら、剣に戻れとは言えずじまい。
そんなことがありフィーサを使わず対象の敵に炎属性を当てている。本気を出してくれるのはスキュラとの戦いだと期待しながら……。
「岩扉が見えるなの!」
「んー?」
かなり深く下って来た所で行き止まりとも言うべき岩扉があった。
「アック、この窪みは何なのだ?」
これもスキュラの遊びか?
おそらくこれを使わせるものだと思うが。
「シーニャ。これを窪みに」
「ウニャ? 色がそれぞれ違う石なのだ。適当にはめ込めばいいのだ?」
「う~ん、青、紫、赤、透明、黄色、緑……今言った順番に」
「分かったのだ!」
以前来た時と同様に拳で岩を破壊しながら進むつもりでいたが、前回崩れかけたことを嫌な記憶としているのか仕掛けを用意されたようだ。
「イスティさま、虎娘に渡したのは宝珠?」
「スキュラは宝珠好きが高じておれの仲間になったからな」
「ふぅぅん? 渡した順番に何か意味があるなの?」
「属性相関だ。そこまで深い仕掛けでは無いかもしれないが、もう一人の存在がおれを試そうとしているのかもしれないからね」
スキュラの中にエドラの魂が紛れているはず。そうなると魔法による攻撃だけでどうにかなる相手じゃない。
「……イスティさまは分かっているなの?」
「ああ、因縁の相手だよ。スキュラの中にいる魂といったところかな」
「あの女……水棲怪物スキュラをイスティさまはどうするつもりなの?」
出来ればスキュラを傷つけたくはないがどうすればいいのか。まずは魂を分ける必要があるな。
「戦いの最中に解決策を見つける。フィーサには属性付与をするから、力を存分に発揮して欲しい。出来るね?」
「は、はいなの!」
「アック、石が光って扉が開いたのだ! 進むのだ」
「やはりそうか」
窪みにはめ込んだ宝珠は、扉が開くと同時にそのまま岩の中に吸い込まれていった。神殿へ行くためのお供え物といった扱いだった。元々大した道のりでは無かったが、満足げに”彼女”はおれを出迎えてくれた。
「ウフフ……あなた、荷物持ちのアック……でしたかしら?」
スキュラの姿と声で待ち構えていたのは聖女エドラそのもののようだ。精神、魂、それら全てがエドラに全て乗っ取られてしまったのだろうか。
「荷物持ちでも何でもない、ただのアック・イスティってところだ。いや、冒険者と言うのが正しいか? お前は随分と姿が変わったものだな、聖女エドラ」
「お前……? フッ、フフフ、誰に向かってほざいているおつもりかしらね?」
「何でもいいが彼女を解放してもらう。グルートと同じように魂を滅されたくはないだろう?」
「……あらあら、しばらく見ない間に酷い輩と成り果てたのですわね。わたくしのこの姿、この醜い怪物を滅せば、あなたが望む結末とはかけ離れてしまうのだけれど?」
話を聞いている限りスキュラとしての自我は失われたように見える。それとも眠ったままで意識の底に沈んだか。時戻しでバヴァルは若返った。その影響を受けてエドラは力を取り戻したということになる。狙いはやはりおれへの復讐。
しかし勇者と賢者はすでに存在しないのに、何故バヴァルは聖女エドラを。
「そうはならない。それにスキュラをあまり甘く見ないことだな」
「フフッ! フフフフフフ! 相変わらずの甘さと弱さが残っているようで安心ですわね。怪物の力も得られたわけですし、荷物持ちのアックを無残な姿に変えて差し上げますわ!」
エドラはおれしか眼中にないのか、シーニャとフィーサには目もくれていない。
それとも?
乗っ取られたスキュラに何かの狙いでもあるのだろうか。
「そういうことなら、おれもあんたをただのシーフェル王女に戻してやろう!」
「――下らない。消す、消してやる……!」