私は彼をなるべく避けるようになった、康夫と三人の時はよくしゃべり何かの拍子で(康夫がトイレに行ったりした時)二人なった時は沈黙を保った
それでも和樹が傍にくると私はドキドキした、彼は確かにハンサムだけれど、康夫の様に逞しくて男らしいという感じではない、どっちかと言うと女性にリードされて喜ぶタイプだ
その高い頰骨と大きな一重の茶色い瞳は、綺麗と言えるかもしれない、私は鉄の意思で彼の顔を見ても心を動かされずにいる術を学んだ
それでも康夫の曲の映画のプレミアとかで、夫婦同伴参加した時などは和樹と出くわすことが時々あった。彼の目はいつも私に気があると思わせる情熱を秘めていた
あれは・・・8か月前の夜のこと・・・思い出さずにはいられない
康夫と喧嘩したあの夜・・・きっかけはお金のことだった
斗真を正美と同じ私立幼稚園へ入れる、入れないで、康夫と激しい言い合いになった
あれは私が悪かった、彼のお給料で養ってもらっているのに、康夫が二人供お金がかかる私立に入れるんじゃなく、斗真を保育園に入れて私に働いてくれと言った、うちはそんなにブルジョアではないと
それが腹が立ってつい言い返した
私の結婚した頃からの夢だった自分の子供達を、私立幼稚園に入れる夢すらも私はあきらめなければいけないのかと・・・
あなたはもっと出世してくれると思っていたと・・・もっと稼いできてくれると思っていた。青春時代をすべてあなたに捧げたのに、残った仕打ちは節約生活に明け暮れる日々だと・・・
そして醜い大喧嘩になった
私は4年生の大学を出ているので、エリート意識が強くプライドが高いと母によく言われていた
「どちらかが譲らなくては結婚生活は上手くいかないのよ」
とも言われていた
私は譲らなかった
そして康夫も私と同じように頑固な所があって、マシンガンのように私に避難の言葉を浴びせかけ、キャスターの饒舌な舌で、あらゆる私の至らなさに切り込んで来た
「どうして君なんかと結婚したんだろう、今はとても後悔しているよ、子供達がいなかったら僕はとっくに離婚している!」
「その言葉そっくりお返しするわ!私もあなたがそんな意地悪な人だと思わなかった!」
「僕は君の親みたいに、君を甘やかして何でも言う事を聞けないよ!大人になってくれよ!」
「どうしてもっと思いやりを持ってくれないの!」
傷ついた私は、彼の火に油を注ぐ様な言葉を返した。彼が出世しないのは自分のせいじゃない、実力だとも言ったかもしれない
彼は怒りに目の前の椅子を蹴り上げた、私は身をすくませた、康夫もハッとした自分が怖くなったんだろう。彼は自分の書斎に閉じこもった
私はそのまま正美と斗真を車に乗せ、実家に帰った、なにがあったのか母は知りたがったけれど話せなかった。母に子供達を任せて、出かけて来ると言った、母は友人に愚痴でも聞いてもらいにいくのだろうと思った
私は車を運転しながら、止まらない涙で視界がぼやける中を和樹のマンションへと向かった
和樹は最初驚いていたけど、泣いている私を家の中へ招き入れてくれた。私はひどい有様だった、和樹はワインを注いでくれた
康夫がどうしてあれほど不幸なのかを彼に訊いた、
どうして私をあれほど非難するの?
私の事を何か聞いている?
私達はもう終わりなの?
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