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真っ暗な視界をどうにかしようと、重い目蓋をこじ開ける。『どうやら俺は、いつの間にか眠っていたみたいだな……』——と、リアンは思った。
此処まで深い深い眠りは初めてだったせいか、まだ目の前が少しかすみ、頭がぼぉっとしている。それでも無理矢理周囲を見渡して何処で眠ってしまったのか彼が確認すると、絢爛豪華な室内が彼の青い瞳に映った。
(……王座に座ったまま、寝落ちしていたのか)
額を軽くおさえ、リアンは数回瞬きをした。何となく、本能的な感覚で『あぁ、そうか。コレは二周目だ』と急に悟り、一気にリアンの頭の中が覚醒していく。間違いなく、彼が管理者ゆえに知り得た情報だろう。なので他の者はきっと気付きようがない。
一体全体、何があった?どういう経緯で俺は死んだんだ?
——誰に、殺されたんだ。
魔族達の有能さのせいで『勇者』が全く育たないこの世界で、一体誰が『魔王』であるリアンを倒したのか不思議でならない。一周目の記憶が全く脳内に残っていない事が酷く悔やまれる。
「魔王様ぁ、本日のご報告に伺いましたぁ」
入り口付近からキーラの声が聞こえてきた。
『もうそんな時間なのか』と思いながら「……そうか」とそっけなくリアンが応える。だが そんな態度にはすっかり慣れているキーラがリアンの側までトットットと近づき、一礼した後、昨日と同じような内容の報告を始めた。
そんな彼の声が、どこか遠くに聞こえる気がする。だけど、今までずっと抱えてきた虚無感や寂しさ、退屈でならないといった感情が、何故か不思議と胸の中に無い。そんな感覚は随分と久方ぶりなはずなのに、なぜか昨日の事の様にも思えた。
(そうか……コレが、『二周目』ってやつなのか)
慣れぬ感覚にリアンが戸惑っていると、急になんの前触れもなく彼の足元に激しい光源が出現した。
「——んな⁉︎」
報告書を読み上げていたキーラが驚き、「魔王様こちらへ!」と大声で叫ぶび、リアンの腕を引っ張る。だがリアンは、咄嗟にその手を振り払ってしまった。
「『召喚陣』だと?——という事は……そうか、俺を殺したのは『召喚士』か!」
「……ま、魔王様、一体何をおっしゃって?」
この瞬間が『二周目』である事を事を知り得ないキーラは戸惑いを隠せない。振り払われてしまった手が行き場を失い困っていると、ピタッとキーラは体の自由が奪われ始めたみたいだ。
リアンの足元に出現した光源は段々と大きくなっていき、光を中心として風が巻き上がっていく。それに呼応するようにリアンは期待と緊張とで胸がバクンバクンと煩い程に高鳴り、彼は『もっと早く早く早く!』と強く願った。
(この先に、俺がこれから愛する事になる者が待っている!)
その事をずっと前から知っているリアンは、状況が理解出来ずに困惑するキーラに向かい、ニッと笑ってみせた。
「ちょっと出かけて来るが、お前達は一切心配するな。そうだなぁ……また死にたくなったら、ちゃんと此処へ戻って来るから」
「——は⁉︎ちょ?ま、まお……リアン様⁉︎」
驚き過ぎ、キーラはリアンの名前を叫んだ。
「ははは!一周目もそう呼んでくれていたら、ちょっとは俺も嬉しかったんだけどな」
覚えてはいないが、何故かそうであったと確信出来る。『この奇妙な感覚にはしばらく慣れそうにないな』と思ったが、幸いにしてちっとも不快ではなかった。
「な、何の話ですか⁉︎リアン様!リアン様ぁぁぁぁぁ」
徐々に風の音の方が強くなってしまい、必死にリアンを呼ぶキーラの声が無情にも全てかき消されていく。緊急事態であると察した警備の者達も玉座の間に集まって来はしたが、なす術も無く、ただ馬鹿みたいに呆然としている。
そんな魔物達の元から強制的に連れ去られて行くリアンは、最後に、これまで彼らに一度も見せた事のない程の幸せそうな笑顔を浮かべていたのだった。
「——迎えに来たぞ、竜斗」
リアンの召喚先には、着物を纏った一体の見知らぬ『鬼』が立っていた。
一度も逢った事の無い相手のはずなのに、手を差し出しながらそう言われたリアンは、満面の笑みで召喚士に向かい、「ありがとうございます、主人!」と返事をした。
【本編・完結】