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第十四章 月が導く先
第五話 打ち寄せる波と闇
食事を終えた5人は、海岸へ続く通りを並んで歩いていた。
午後の温かい日差しが振り注ぎ、街路樹のヤシが南国の気持ちのよい木陰を演出する。
潮の香りを纏った風が頬を撫でる。
思わず浮き足立つ気持ちを抑え、港の喧騒を抜けた先。
視界が一気に開け、広大な海が目の前へ広がった。
「うわぁ〜!!」
真っ先に駆け出したのはシュンタだった。
「海や海やっ!!」
「子供かお前は」
ジュウタロウが呆れたように笑う。
だが、その横でダイチもすでにブーツを脱ぎ始めていた。
「久々やなぁ〜!!」
「おい、ダイチ。お前もか」
「せっかく来たんやしええやん!」
二人はそのまま砂浜へ飛び出していく。
波打ち際ではしゃぐ姿に、ハヤトは思わず吹き出した。
「本当に仲良いな、あの二人」
その隣でジュウタロウは静かに海を見つめていた。
フィルディアとは全く違う景色。
雪と氷に覆われた北の大地では見ることのない、果てのない青。
太陽の光を受けて輝く海面が、銀色の瞳へ映り込む。
「……綺麗だ」
思わず、小さく呟いた。
その横顔を見て、ジントが柔らかく微笑む。
「ジュウタロウがそう言うの、少し珍しいね」
「……そうか?」
「うん」
「別に、思ったことを言っただけだ」
そう言いながらも、ジュウタロウはしばらく海から目を離さなかった。
その姿を見て、ジントは少し嬉しそうに笑う。
そして砂浜ではしゃぐ二人を見て、ジントも黒いローブとブーツをそっと脱いだ。
裸足で砂浜を歩く。
ひんやりとした砂の感触。
静かに寄せては返す波。
ジントは恐る恐る足先だけ海へ浸けてみる。
「……冷たい」
思わず目を見開いて小さく笑う。
その表情は、どこか幼い子供のように見えた。
波打ち際ではしゃいでいたダイチとシュンタは、いつの間にか互いに水を掛け合っていた。
「おいシュンタ!やったな!?」
「先に掛けてきたんダイちゃんやろ!?」
「知らんわ!」
「素直に認めろや!」
二人は笑いながら楽しそうに水を掛け合う。
「お前ら……」
少し離れた場所で見ていたハヤトが、呆れたように笑った。
「小さい子供でもないのに、何してるんだか……」
「やってることが子供と変わらんな」
ジュウタロウもため息を吐く。
その時。
「ダイちゃん!」
シュンタが大きく腕を振りかぶる。
「これでも喰らえ!」
「ちょ、待っ――」
バシャァッ!!
勢いよく飛んだ水がダイチの横を通り過ぎ、その後ろにいたジントへ直撃した。
「…………」
一瞬、時間が止まる。
髪からぽたぽたと水を落としながら、ジントが静かに二人を見る。
「…………」
「あ……」
シュンタの顔が固まる。
「……やば」
ダイチも目を逸らした。
「ジント……」
「…………」
数秒の沈黙。
そして。
「アハハハっ」
思わず声を上げて笑うジント。
「いや、ジント笑っとる場合じゃないで!」
ダイチが慌てる。
「ご、ごめんジンちゃん!」
シュンタも手を合わせる。
けれど濡れた髪のまま子供のように笑うジント。
ハヤトが吹き出した。
「ふっ……」
「ハヤトまで笑うんかい!」
ダイチが叫ぶ。
「いや、だって……」
ハヤトは柔らかく目を細める。
「笑うジント、可愛いなと思って」
その言葉に、ジントは目を丸くする。
そして。
「……そうかな」
少し恥ずかしそうに目を伏せた。
その瞬間、またシュンタが水をすくう。
「ほな、次はジンちゃんも参加な!」
「え?」
「ええやん!せっかく海来たんやし!」
「ちょ、シュンタ!」
ダイチが止める間もなく。
今度は三人で笑いながら水を掛け合い始める。
少し離れた場所で見ていたジュウタロウは、呆れたようにため息を吐いた。
「……本当に騒がしいな」
そう言いながらも、その口元には柔らかい笑みが浮かんでいた。
浪の音しか聞こえない静かな海辺に、5人の笑い声が響く。
やがて空はゆっくり茜色へ染まり始めた。
水平線の向こうへ沈んでいく夕日。
海面はオレンジ色に輝き、世界そのものが静かに燃えているようだった。
5人は岩の上に腰掛け、しばらく言葉もなくその景色を眺めていた。
そして、日が沈む。
辺りを包む光が薄れていく。
「……そろそろ戻るか?」
ハヤトが口を開いた、その時だった。
「……っ!」
ジントの表情が変わる。
胸の奥がざわつく。
潮風に混じる、嫌な気配。
「ジント?」
ダイチが振り返る。
ジントは静かに海を見つめていた。
空にはまだ半分ほどの月。
満月ではない。
なのに海の向こうから、濃い瘴気を感じる。
「……来る」
ジントが小さく呟いた瞬間。
ザバァッ――!!
海面が大きく波打った。
次の瞬間、波そのものが形を変え始める。
黒い瘴気を纏いながら、巨大な獣のような姿へ変貌していく。
「魔物……!?」
ダイチが目を見開く。
だが、それで終わりではなかった。
次々と海から波が盛り上がり、幾つもの魔物が砂浜へ這い上がってくる。
全員が一瞬で臨戦態勢へ入った。
「散開するぞ!」
ハヤトの声が響く。
黄金の魔力を纏った大剣が抜かれる。
次の瞬間。
轟音と共に、目の前の魔物をまとめて薙ぎ払った。
閃光が夜の海を裂く。
「右は任せろ」
ジュウタロウの銀髪が風に舞う。
細剣が一閃。
空気が凍り付き、海水ごと魔物を氷結させた。
砕けた氷片が月光を反射する。
「はぁっ!!」
ダイチは雷を纏った拳を叩き込む。
水飛沫と雷光が同時に炸裂し、魔物を吹き飛ばした。
さらに低く踏み込み、回し蹴りを放つ。
水流を纏った一撃が魔物の群れを薙ぎ倒した。
その後方では、シュンタが赤いリュートを掻き鳴らす。
激しい旋律。
音の波が広がり、魔物達の動きが鈍る。
混乱したように動きを乱した瞬間――
ジャァンッ!!
鋭い音色と共に、炎のような熱波が放たれた。
「燃えろ!!」
火花が夜の浜辺へ散る。
だが攻撃を受けてもなお、魔物達はまるで引き寄せられるように一斉にジントへ向かっていく。
黒い瘴気。
負の感情。
憎しみ。
恐怖。
悲しみ。
全てが、ジントへ集まる。
ジントは静かに目を閉じた。
――怖くない。
もう拒絶しない。
全て受け入れる。
仲間達が弱らせた魔物へ、そっと手を伸ばす。
黒い瘴気が、月光に照らされながらジントの身体へ吸い込まれていく。
まるで帰る場所を見つけたように。
魔物達の姿が静かに崩れていく。
波の音だけが響く。
一体。
また一体。
やがて最後の瘴気を吸収し終えた時、海は再び静寂を取り戻していた。
寄せては返す波。
夜の潮風。
まるで何も起きなかったかのような静かな海。
「……終わったか」
ハヤトが肩で息をしながら大剣を下ろす。
その時。
ふらり――
ジントの身体が小さく揺れた。
「ジント!」
ダイチが咄嗟に駆け寄り、その身体を支える。
額には汗が滲んでいた。
顔色も少し悪い。
「大丈夫か……!?」
ジントは浅く息を吐きながら、小さく笑った。
「……うん、大丈夫……」
けれど、その声は少しだけ掠れていた。
ダイチは不安そうにジントを見つめる。
打ち寄せる波が徐々に近づき、気がつけば海岸線が先ほどよりずいぶん迫っていた。
そして空には、満ちようとする月が、静かに浮かんでいた。
コメント
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海辺のほのぼの日常から一転、戦闘に切り替わる流れが熱すぎるっす! 水の掛け合いでジントが子供みたいに笑うシーン、ほんと可愛い……。戦闘ではジュウタロウの氷結やシュンタのリュート音波が痺れたし、ジントが「怖くない、もう拒絶しない」って全て受け入れる覚悟も沁みた。ラストのふらつきと細い月の描写が不穏で、続きが気になりすぎるわ!