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るるくらげ
いと
第2章 第18話
「暗影胎動」
紅の空。赤黒い大地。淀んだ空気。
ゾラン王国から、はるか遠く――。
「ボルムが死んだ」
真っ白いローブを纏った人影が、低く呟く。
灰色の肌。真紅の瞳。白目は黒く染まり、耳は鋭く尖っている。
「えっ……なにがあったの……?」
もう一方は、黒髪に毛先だけ青が混じる少年のような姿。
犯罪的に美しい白い肌。人の形をしていない耳。真っ青な瞳が無邪気に揺れる。
「わからん。だがヤツが死ぬ前、オレに向けて魔力信号を飛ばしていた」
「ご、ごくり……」
「――双呪を見つけた。と言っていたぜ」
一瞬の静寂。
「おぉ〜!すっごーい!やっとだね!」
「ああ」
「それでそれで? その人の名前は〜?」
「……チッ。あの野郎、そこまでは記録できてねぇみたいだ」
「え〜なにそれ〜。でもボルム、僕の名前覚えてくれなかったよね」
「頭の悪さが仇となりやがったな……。まぁいい。場所と大体の犯人はわかってる。ゾラン王国の南でやつは死んだ。氷魔術で殺されたらしい。きっとそいつが双呪だ」
「さっすがリッパー!あったまいい〜!」
「……これから忙しくなるぞ。アクロー」
――二人の魔族が、動き出した。
城下街。
「す、すっげぇ!!!」
アクラは目を輝かせながら歩く。
人の波。焼き立ての匂い。魔術書店。娯楽店。
すべてが揃っているかのような活気。
人々は皆、前を向き、目に希望を宿している。
「や、やめてください!恥ずかしい……田舎者だと思われたくないですよ我は」
「お、おう!」
「バリエ帝国もこんな感じなのか?」
「いいえ。建物は綺麗ですが、人々は最悪なので。どこかしらで汚職が行われていて……どんよりした空気です」
「そ、そんな国が隣で大丈夫なのかよ……」
「ええ。だから国境には人工的な谷がつくられてるじゃないですか」
「えっ!? そうなのか!?」
「ゾラン王国とバリエ帝国は仲がとても悪いので」
「よく孤誓隊に来れたな……」
「我は別の国から志願したんです!一緒にしないでください!」
改めて、己の無知さを思い知るアクラ。
「それにしても……お腹、すきましたね」
「そうだな……なんか買うか?」
「冗談じゃないです!今お金を使ったら残り一週間はどうするんですか!?」
ぐぅぅぅ……
「……お前」
「……こほん。まぁ初日ですから。仕方ないですね。ほら、レストラン探しますよ」
「レストランは高いぞ……?」
「おっと……そ、そうでした! じゃあ……お持ち帰り……ですか?」
「……それも高いぞ」
「じゃあ一体どうしろって言うんですか!」
「フツーにそこらの市場で安いパンとか買えばいいんじゃないか?」
「はっ……! た、たしかに……」
黒刃エペ。 金銭感覚が狂っているのは、元々の性格なのかもしれない。
――30分後。
城下街、東の公園。
「パンって言ったけど、実はおれあんまり好きじゃないんだ……米が恋しいな……」
黒パンをかじるアクラ。 ぼそりと漏らした本音。
「我は好きですけどね」
バゲットを静かにちぎるエペ。
「そういや……エペはどんな武器を使うんだ?」
「我の名前通り、レイピアのエペですよ。我ら黒刃一族の名は、基本的に剣からもらうんです」
「なるほど……」
「かつて我らの先祖様たちは魔族と戦争を繰り広げていたので、その時から剣に対する熱意が広がったようですよ」
「魔族……? そんな昔から魔族はいたのか? てかそもそも、魔族ってなんなんだ?」
エペはため息をつく。
「はぁ……? 本当に何も知らないんですね。まぁ、魔族はアクラさんもこの間見たと思いますけど、とにかく凶暴な化け物のことです」
約400年前。 ゾラン王国とバリエ帝国の国交がまだ正常だった頃。
時空の裂け目が発生し、魔界から魔族が大量に侵入した。
本来、誓刃とは他国の侵入に備えて作られたもの。 だが当時は、大量の隊員が魔族と正面衝突し、多くの犠牲が出た。
「な、なんでそんなことが……」
「当時の魔界の皇の命令、らしいです」
「皇……? てことは魔界にも文明が!?」
「はい。そして恐ろしいことに――その魔界帝皇は、我々と同じ人類、ヨムロ界人だったそうです」
「……は???」
背筋が、凍る。
「ヨムロ界人って……この星に住んでる人間だろ? なんで人間が魔界なんかで……」
「ええ……闇が深いですよね」
完璧な中性的美貌。 圧倒的な賢さと強さ。
だが性別すら不明。
……らしい。
静かな風が、公園を抜ける。
「さて! 我らもこんな話をしているだけでは人生のムダ! お金も尽きそうですし、少しでも稼ぎましょう!」
「そ、そんなことできんのか!?」
「当たり前です! 我らは孤誓隊ですよ!? 手当たり次第、人々に伺ってみましょう!」
――結果。
「ガキがァ! 帰れェーー!!!」
「あらあら、孤誓隊の真似事かしら?」
「未経験者にこの仕事は任せられん」
――全敗。
夕方。
「……だめだった」
アクラは地面にへたり込む。
「ど、どうしてでしょうか……我の努力不足でしょうか……」
「だ、だいたいこんなんで金稼げるってアイデアが……!」
「なんですか! 文句ですか!? 自分だって何も出来なかったくせに!」
「……うっ…………」
情けない。
コツ……コツ……。
足音。
「もしもーし。もしかして、孤誓隊員かな?」
顔を上げる。
そこに立っていたのは、二人。
暗めの金髪。 後頭部で短い髪を束ねている青年。 青い瞳。常にわずかに上がった口角。
柔らかい笑み。 だが、どこか底が見えない。
その隣。
黒髪の少女。 胸元まであるロングヘアを低めのツインテールにまとめ、毛先だけ灰色。 白に近い灰色の瞳。右目の下にほくろ。 半目の視線が、冷たく射抜く。
空気が、変わる。
「おい貴様。アーベルが聞いているだろ。返事。」
「は、はい! 我らふたりは孤誓隊員であります!」
「ほら、やっぱりそうだ」
少年が微笑む。
「俺は冥夜アーベル。きみたちの先輩だよ」
「こっちは枯桜ロイマロ。無愛想だけど……俺の大事な同期なのさ」
――先輩。
実力者の圧が、じわりと伝わる。
「どうしてこんなところへ?」
「団子を買いに来てね。噂を聞いたのさ。孤誓隊員がいるって」
「団子……? ロイマロさん、東幻出身ですか?」
「ふっ。今更か。そうだ。貴様もか?」
「は、はい!」
束の間、空気が和らぐ。
だが。
「――結論から言うと」
アーベルの声色が変わる。
「この一週間で属性を得られなければ、最悪、誓刃から追放されるかもしれない」
沈黙。
「思っているより厳しい。あの先生はな」
ロイマロの声は低い。
「それを伝えに来た」
「俺らがきみたちの属性発見に協力してあげよう。ただしーー」
「ーー1人につき1200ゾラを支払ってもらう」
2人の息はピッタリだ。
「……!?」
魔族案件で受け取ったのは2000ゾラ。
そこから1200ゾラ……相当な高額だ……。
「エペ、お前は……?いくらもらった?」
「我は捕獲ですから、900ゾラです……」
コソコソと話し合う……
1分の沈黙の上ーー
「わかりました。属性発見……してくれるんですよね?」
「約束しよう。俺らはベテランだからね」
「ただし!後払いですから!1週間でなにも発現しなければはらいませんから!」
「それでいい」
ロイマロが無愛想に答える。
あまり信用のできなさそうな2人だが……何とかやっていくしかない……!!
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