テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『まもなく、立川、立川です。青梅線、南武線、多摩都市モノレールはお乗り換えです──』
中央線の車内アナウンスに、優子は弾かれたように顔を上げながら、座席から立つ。
電車が立川駅のホームへ徐々にスピードを落としながら滑り込むと、彼女は大きなボストンバッグを煩わしそうに持ち、ドアの前に立った。
停車してドアが開くと、そそくさと電車から降り、改札を抜ける。
四方八方から押し寄せる人の波をかい潜り、二つ折りの財布をボストンバッグから取り出した。
柔らかな黒革の財布は、優子が刑務作業で製作したもの。
札入れ、小銭入れ、カードポケットが四ヶ所あり、出品したものの売れ残ってしまい、彼女がそのまま譲り受けた。
現在の所持金は、刑務作業で得た報酬の三万。
(三万とかいって、あっという間に消えちゃうし……)
デニムのポケットに財布を捩じ込むと、コインロッカーにボストンバッグを入れる。
小銭を入れて施錠すると、身軽になった優子は、立川駅南口の駅ビルへ向かった。
銀行のATMを見つけ、自分の預金残高を確認すると、七万しか残っていない。
(これだけしか残ってないの!? 終わったじゃん。まぁ自分の出所祝いに、ちょっと贅沢してもいいよね?)
全額を引き出すと、フラフラと駅ビルのレディースファッションのフロアを覗いて回った。
北口の駅ビルへ移動しても、セレクトショップを中心に足を向ける彼女。
最後は、以前利用していたブランド店に立ち寄り、シンプルな黒のワンピースと同色のバレーシューズ、本革製のツーウェイの赤いミニボストンバッグを購入。
その後、おかっぱ頭にウンザリしていた優子は、サロンへ向かい、スタイリッシュな前下がりのボブ、髪の色もアッシュ系のブラウンにカラーリングした。
「さて……そろそろお腹空いたし、北口周辺のカフェに行こうかなっ」
念のため、財布の中身を覗いてみると、所持金は四千円しか残っていない。
「うっ…………ウソ……でしょ!?」
逮捕前、自分のために散財してきた癖は、今も抜けていないようだ。
泣く泣く駅前のチェーン展開しているカフェに入った優子は、サンドウィッチとブレンドコーヒーのセットで腹を満たす。
(ヤバい…………これからどうしよう……)
後先考えず金を使い果たし、途方に暮れた優子は、当てもなく立川駅周辺をフラフラしていると、駅から少し離れた場所に公園を見つけた。