コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
🧓 シーン1:重い足音
夕暮れが近づくころ、《碧のごはん処(ミドリ)》にゆっくりとした足音が響く。
現れたのは、深い碧のローブを羽織った老碧族。背筋は曲がり、手には古びた杖。
だがその瞳には、まだ灯る火がある。
「……“碧塔ステーキ”、頼めるかい」
その声に、厨房の奥で動きが止まった。
「……あの塔の素材やね。まいど、まかしとき」
タエコの手が、そっと端末に触れる。
🧑🍳 シーン2:娘の杭の場所から
調理コードが静かに入力される。
《FRACTAL_COOK_MODE=STEAK》《SOURCE=碧塔_区画36》
塔の“碧素土層”で育った草で育てられた肉、杭の根元から採れた碧菜、そして淡く青光りする記憶ソース。
ジュウッという音とともに、皿の上に“想い”が焼きあがっていく。
すずかAIが、低く静かに告げる。
「本料理には、杭No.237-Dの共鳴情報が含まれています。記録主:ナギ。感情:希望と決意。」
「……ナギ。あの子の名前……」
🍽️ シーン3:ひと皿に宿るもの
老碧族はナイフを持つ手を小さく震わせながら、最初のひと口を口に運ぶ。
青くきらめくソースが、舌にふれた瞬間。
まるで、風の中から娘の声が聞こえてきたようだった。
『お母さん、ちゃんと生きててね。私の杭、見守っててね』
老碧族の目に、涙があふれる。
「……あの子、生きてる気がしたわ」
タエコは黙って、食器を片づける。
すずかAIはただそっと告げた。
「共鳴終了。記録:穏やかな幸福。」
老碧族は、泣き笑いのまま、ゆっくりと戸を開けて帰っていった。
命が終わっても、杭は語る。
そして料理は、それを届ける。