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このエピソード、もう胸が締め付けられました……! ガルドが「またな」って一人ひとりに別れの言葉をかけるシーン、泣きそうになりました。そこにカイルが並んで「一人で英雄になるな」って言うのがカッコよすぎて。騎士団全員で突撃する熱さと、最後のロビンの矢で一気に不穏な空気に変わる構成が本当に巧いです。次が気になりすぎます……!
ゴゴゴゴゴ……
空気が震える。
黒い靄が空へ昇る。
まるで世界そのものが悲鳴を上げているようだった。
魔王は片膝をついている。
頭を垂れたまま動かない。
だが。
誰も近付けない。
あまりにも不自然だった。
「……何だあれ」
誰かが呟く。
「罠か?」
「いや……」
「今なら……」
騎士達の声が漏れる。
攻撃の好機。
そう見える。
だが同時に。
本能が叫んでいた。
近付くな。
危険だ、と。
その時。
ガルドが前へ出た。
「ったくよ」
肩を回す。
首を鳴らす。
ゴキッ。
ゴキッ。
血に濡れた大剣を担ぎ直す。
「やっぱこういう役は」
笑う。
いつものように。
豪快に。
「俺しかいねぇよな」
「ガルド……」
カイルが名前を呼ぶ。
ガルドは振り返らない。
「いいか団長」
大剣を握る。
「俺の攻撃が入ったって分かったら」
一拍。
「俺に構わず押し切れ」
「待て」
カイルが言う。
だが。
ガルドは笑う。
「ははっ」
「そんな顔すんなって」
セラが飛び出そうとする。
「ガルド!!」
しかし。
その肩をドランが掴んだ。
強く。
震える手で。
「ドラン!」
「……セラ」
低い声。
かすれている。
「女だから分かれとは言わん」
「だが」
唇を噛む。
拳が震える。
「アイツは今」
「隊長としての役目を果たそうとしてる」
「だから……」
声が詰まる。
「だから頼む」
ドランは俯いた。
その目には涙が浮かんでいた。
誰よりも。
止めたいのは自分だった。
長年共に戦った戦友だ。
失いたくない。
それでも。
それでも止められなかった。
⸻
ゴゴゴゴゴ……
空が軋む。
黒い雲が渦巻く。
時間がない。
誰の目にも明らかだった。
ガルドが前を向く。
「またな」
まず。
「カイル」
次に。
「リシア」
最後に。
後ろを見ないまま笑った。
「生きてたら酒でも奢れ」
そして。
大剣を構える。
「うおおおおおおおおおおッ!!」
地面が砕ける。
ガルドが飛び出した。
一直線。
魔王へ。
ただ真っ直ぐ。
己の全てを賭けて。
⸻
だが。
次の瞬間。
横から誰かが並んだ。
同じ速度。
同じ覚悟。
ガルドが目を見開く。
「……は?」
銀の鎧。
銀の剣。
誰よりも見慣れた背中。
「おい」
ガルドが叫ぶ。
「お前だけ抜け駆けする気か?」
カイルだった。
ガルドの額に青筋が浮かぶ。
「カイル!?」
「何やってんだテメェ!!」
カイルは前だけを見る。
「貴様こそ」
静かな声。
だが怒っていた。
「隊長という任を忘れたのか」
「は?」
「死ぬのがお前の仕事か?」
ガルドが言葉を失う。
カイルは続ける。
「隊長なら」
「最後まで部下を率いろ」
その時。
後方から声が響く。
「隊長ォォォォォ!!」
振り返る。
一番隊。
ガルド直属の隊員達。
必死の形相で走ってきていた。
「勝手に行くな!!」
「置いてくな!!」
「隊長!!」
ガルドの目が見開かれる。
そして。
さらに後ろ。
全騎士団が走り出していた。
リシア。
セラ。
ドラン。
負傷兵達まで。
誰一人止まっていない。
「お前ら……」
声が漏れる。
掠れる。
するとカイルが笑った。
珍しく。
本当に少しだけ。
「一人で英雄になるな」
そして剣を構える。
「白銀騎士団は」
後方から雄叫びが上がる。
「一人で戦う組織ではない」
その瞬間。
何百もの足音が重なった。
地面が揺れる。
騎士団全軍突撃。
ガルドは数秒だけ黙り込む。
そして。
腹の底から笑った。
「ははっ……!」
「馬鹿共が!!」
大剣を振り上げる。
「だったら全員で行くぞォォォォォ!!」
雄叫びが夜空を裂いた。
魔王との距離。
残り僅か。
そして。
片膝をついた魔王が。
ゆっくりと顔を上げた。
その瞬間だった。
遠く。
崩れた鐘楼の上。
誰にも気付かれない位置。
一本の矢が静かに待っていた。
まるで。
最初からその時だけを狙っていたかのように。
ロビンは拘束されたまま空を見上げる。
「やれやれ」
苦笑する。
小さく呟いた。
「狩りっていうのはね」
「獲物が一番油断した瞬間が美しいんですよ」
その言葉。
リシアが何かに気付く。
「団長!!」
叫ぶ。
だが遅い。
⸻
ヒュンッ!!
⸻
夜を裂く音。
一本の矢。
真っ直ぐ。
一直線。
狙いは。
カイル。
⸻
「!!」
カイルが振り向く。
反応は間に合わない。
近すぎる。
速すぎる。
避けられない。
⸻
その瞬間。
一つの影が前へ出た。