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第2話:世界一自分を嫌いな人
その通知は、夜中のスマホに、唐突に届いた。
「あなたは、“世界一自分を嫌いな人”に認定されました。」
名前はヨルネ、27歳。
肩までの黒髪を雑に括り、全身が黒ずくめ。アイラインは濃いが、目元は伏せがち。
SNSのアイコンは「沈黙中」とだけ表示され、フォローも投稿もない。
「“ナンバーワン”? それすら、私を馬鹿にしてるんでしょ。」
彼女はそう呟いて、通知を無視した。
仕事は続かず、友達もいない。何をしても「私なんて」と呟く毎日。
誰も見ていないと思っていた。
だが――ひとりだけ、見ていた。
ミナは、彼女の名前が公開された“ナンバーワン一覧”を眺めていた。
その中で唯一、肩書きに“痛み”を感じたのが彼女だった。
「ねえ、あなたに依頼したい。
“世界一自分を嫌いな人”ってさ、
逆に“世界一誰にも期待されない自由人”だと思わない?」
夜の公園。ミナは真っ白なパーカーとデニムで現れた。
隣にはヨルネ。全身黒のまま、フードを深くかぶっている。
「私に期待しないなら、何をしても怒らないんでしょ?」
「うん、むしろ好きにしていいよ。
あなたが“私なんか”って言うたび、私が“でも私は好きだけど”って返すだけ。」
「ウザ……」
「ありがと。」
そのとき、公園で暴走していたドローンが2人の近くに飛来。
飼い犬の様子を監視していたらしいが、何かの拍子で制御不能になった。
ドローンが急降下。ヨルネの頭上へ。
ミナがヨルネを突き飛ばす――が、ヨルネの手がミナの腕をつかんで引き戻す!
ドローンはヨルネのブーツの踵をかすって爆ぜた。
煙の中、フードを脱いだヨルネのシルエットが浮かぶ。
黒一色の服。スッと伸びた指。
そして、自分を庇おうとしたミナを今度は逆に守った、その姿――
「……私なんかが、誰かを守っちゃったね。」
ミナは笑って言った。
「ね、今の一瞬、“自分を嫌いじゃない自分”になれたでしょ?」
数日後、ヨルネの端末に新しい通知が届く。
「あなたは、“世界一、自分を嫌っても他人を守れる人”に認定されました。」
END