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第3話:世界一他人の声を聞きすぎる人
> 「あなたは、“世界一他人の声を聞きすぎる人”に認定されました。」
その通知が届いた瞬間、ハルの頭の中はさらにうるさくなった。
周囲の話し声、SNSの呟き、駅のアナウンス、誰かの文句、誰かの願い。
彼にはそれらが、音ではなく“意味”として頭に突き刺さる。
16歳。制服のブレザーの下にイヤホンをしているが、音楽は流れていない。
長めの前髪で目を隠し、誰とも目を合わせないように歩いていた。
> 「お前ってマジ空気読むよな〜」 「逆に怖いんだよ、全部察してんじゃね?」
周囲は軽く言う。でもハルにとって“察する”のは呪いだった。
誰かの悪意や本音を、拒む前に拾ってしまう。
> 「ああもう、誰かの声じゃなくて、“自分”の声が聞きたい。」
ミナが彼を見つけたのは、ある投稿だった。
> 「自分をミュートする方法って、誰か知ってますか?」
ミナは返信する。
> 「知らない。でも、“自分をスピーカーにする方法”なら、一緒に探せるかも。」
繁華街の屋上。ミナは真っ赤なジャージにニット帽。
ハルはいつも通り、制服にイヤホン姿で現れる。
「ここ、うるさくない?」
「うん。でも……全部まとめて叫べる気がした。」
突然、下の通りで叫び声が響く。
酔っぱらった男が、別の若者に絡みはじめた。
ハルの頭に、その場の言葉が飛び込んでくる。
> 「見下しやがって」「この街の奴ら全員、俺を馬鹿にしてる!」
その瞬間、男が瓶を持ち上げ――
「やめろッ!!」
ハルの声が響く。誰よりも大きく、誰よりも的確に。
男の動きが止まり、周囲の視線が彼に集まる。
ハルは怯えず、言葉を繰り出した。
「あなたは馬鹿にされてなんかいない。ただ、“届いてない”だけなんだ。
だから届く声を……使ってくれよ!」
ミナが隣で拳を掲げた。
「世界一うるさい正義の味方、誕生!」
数日後、ハルの端末に新たな通知が来た。
> 「あなたは、“世界一、他人の声を使って戦える人”に認定されました。」
END