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午後の光が薄く差し込む教室で、机の上に一枚の紙が置かれていた。文字は乱れ、力なく震えている。
――「生きてる意味がわかりません。消えたいです。幸せってどこにあるんですか。自分なんていない方がいい」
相談者は肩を落とし、目を伏せたまま小さく息を吐く。遥はその紙を手に取り、言葉を選ぶように視線を落とした。
「……意味、か」
声は低く、淡々としていた。
「俺も、ずっと探した。でも、見つからなかった。家でも学校でも、どうしても居場所がなくてさ。……意味なんか、最初からないんじゃないかって思った夜は、数えきれないほどある」
相談者は小さく肩を震わせた。涙ではなく、言葉にならないため息。
「消えたいって思うのも、わかる」
遥は視線を窓の外にやり、遠くの校庭を見た。日差しは暖かいのに、心には届かない。
「俺も思った。存在を消してしまいたいって。でも、いなくなったらどうなるかなんて、誰も知らないだろ。だからまだ、踏みとどまってるんだ。……俺も同じ、途中なんだよ」
相談者はうつむいたまま、手のひらで紙を握りしめた。
「幸せ? そんなの、正直、俺にはわからない」
遥の声は震えず、けれど響きは重かった。
「でも、幸せが見えなくても、生きてる。息をしてる。それだけで、ほんの少しは意味があるのかもしれないって思うんだ。俺はまだ、そこに期待してる」
紙に書かれた言葉の重さは、机の上で微かに揺れている。
「自分はいない方がいい」――そんな気持ちも、俺だってわかる。
でも、いなくなったら、その瞬間から何もかもが終わる。逃げ場も、次の朝もなくなる。踏みとどまっている間に、まだ知らない景色があるかもしれない。
遥は紙をそっと机に戻す。
「答えは出せない。正しい答えも、きっとない」
彼は少し笑った。笑ってるのに、目は笑っていない。
「でも、俺はまだ、ここにいる。呼吸してる。それだけで、まだ終わっちゃいないんだ。……それで十分かもしれない」
相談者は小さく頷いた。涙が少しだけ零れ落ちた。
誰かに慰められたわけじゃない。けれど、同じ場所に立って、同じ問いを抱えた誰かが返してくれた言葉は、確かに重く、温かかった。
夕陽は教室の奥に沈み、赤く染まった影の中で、二人の影は小さく揺れながら、まだ消えずに存在していた。