ジュ―ーー!!
ジュ―ーー!!
しばらく、音星の持った手鏡を覗いていると、凄まじい水の蒸発する音が周囲からして、それから大勢の大きな悲鳴が耳をつんざいた。
叫喚地獄へと来た俺たちは、辺りに立ち昇る水蒸気に圧倒された。火のついていない釜土の傍だから良かったものの。地獄の光景が前よりもかなり酷くなっていた。
「一体? 俺たちが現世に行った後から、ここではどれくらいの時間が経ったんだ?!」
「火端さん! あれ?!」
音星の指差す方を見ると、前に見た大叫喚地獄の入り口の井戸の傍でシロが突っ立ていた。
シロは俺たちに気が付くと、ニャーっと力なく鳴いて、その場でぐったりと倒れた。
「シ! シロ! 大丈夫か!!」
「きっと、シロは……。弥生さんが大叫喚地獄へ行ったことを知らせたかったんだと思います。火端さん。弥生さんが心配です。シロは私が現世に連れ戻しますので、急いで大叫喚地獄へ行ってください」
「お、おう!」
その時、灰色の空から、大きな音と共に、巨大な青い腕と柄杓が雲と雲の間ににゅっと現れた。それから、湖くらいの量の煮え湯が地へとばら撒かれた。
けたたましい人型の魂たちの絶叫が発せられ、俺は思わず耳を塞いだ。
隣にいる音星がシロを連れて、大急ぎで古びた手鏡に写ると、その姿がぼんやりと消えていった。俺は最後まで朧げになっていく音星とシロを見届けると、急いで、井戸へと飛び込んだ。
暗闇の中で、あるのは途方もない閉塞感と風を切る音のみ。俺はそれでも目を開けて、遥か下を見つめた。
落ちる。
落ちる。
落ちる……。
ドシンと、やっと硬い地面に腰から着地すると、辺りの凄惨さに度肝を抜かれた。
獄卒が大勢走り回り。人型の魂を八つ裂きにしていた。あるものは、金棒で腹部を破かれ、あるものは、背中から叩き潰され、また、あるものは、はるか遠くへと吹っ飛ばされ、血潮が至るところにまき散らされていた。
真っ赤な土の色からして、その赤い色は全て人型の魂の吐瀉物か引き裂かれた時に噴き出た血液だなと思えた。
俺はさすがに目を覆いたくなった。
ここは、大叫喚地獄。
呵責で泣き叫ぶ場所だ。
あまりに凄まじいところなので、俺は激しい眩暈を覚えた。だけど、歯を思いっきり食いしばり勇気を出して、妹を探すため歩き出した。
すると、骸骨でできた山の麓に、朧気な姿の黒のサングラスをかけた派手な黒服の男が、呆然と突っ立っているのを見つけた。
その傍には……俺の妹がいた。