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第84話:サムライ・カタシンの夕方
◆ 三大区イ区の放課後
三大区イ区。
駅が近く、新しめの灰外壁のマンションが立ち並ぶ区域。
その一室では、
緑色のキャップをかぶった小学生の男の子(8歳)が
学校から帰るなりランドセルを放り、
水色のTシャツと灰の半ズボンのままテレビの前に座り込んだ。
靴下は黄緑。
まだ丸い指先がリモコンを握る。
キッチンでは、
薄桃色のカーディガンを羽織った母親が
夕飯の支度をしている。
◆ 少年コミック原作アニメ《サムライ・カタシン》
画面がふわっと水色と緑に染まり、テーマ曲が始まる。
主人公の少年カエデは
落ち着いた緑を基調にした淡水色の羽織、
灰の袴風のボトム、
腰には鉄の紐剣。
彼の背後には、
サムライ(国軍)とニンジャ(ネット軍)を
“優しい姿”へデフォルメしたキャラが控える。
・サムライキャラ:淡緑の鎧、丸みのあるデザイン
・ニンジャキャラ:水色装束、丸顔マスク
物語の目的は
「街のゆらぎ(不安)を整える」
という名目の治安教育アニメ。
本物のサムライ・ニンジャとは違い、
子ども向けにふんわりかわいく描かれている。
◆ アクションシーン
カエデが紐剣を掲げると、
灰に近い緑色をした“ゆらぎ獣”が登場する。
もやもやした塊のような形で、怖さは抑えられている。
「イ → ロ → ハ……
こころの順番、整えよ!」
光が走り、ゆらぎ獣がしずんでいく。
◆ 子どもの違和感
画面には、
ハ区の坂道 をモデルにした背景。
古い木造家屋、灰の工場の壁、狭い路地。
ヒロインのミトが言う。
「ハ区は“ゆらぎ”が多いところだね。
整理してあげないと♡」
テレビを見ていた男の子は、眉を寄せた。
「……ハ区のひとが悪いみたいに聞こえる……」
母親はまな板をトントン鳴らしながら答える。
「悪いんじゃないよ〜。
ただ“整えてあげる区”っていうお話なの」
「でも……なんか変だよ……」
「アニメだからねぇ。
サムライさんもニンジャさんも“安心を守るお仕事”って描かれてるだけ」
◆ ニンジャキャラの登場
場面が切り替わり、
水色装束のニンジャキャラが
“安心ネット”という光を町に広げる。
「市民のこころの声、確認中〜」
淡い緑の帯が画面いっぱいに走る。
本物のネット軍が行う
心理指数の取得を“やわらかい光”として表現している。
◆ エンディング
サムライとニンジャが並び、
イロハの石畳を歩く映像。
「こころを整えれば、街はいつでも安心〜♪」
という歌とともに、
イ区・ロ区・ハ区のアイコンがゆっくり点滅する。
男の子はテレビを見つめながらつぶやく。
「……なんでハ区だけ、いつも“ゆらぎ”担当なんだろ……」
母親は鍋をかき混ぜながら静かに笑う。
「そういうふうに作ってあるアニメだからね〜」
◆ その夜
三大区イ区の窓の向こうに、
少し離れたハ区の方角で
緑の街灯が規則的に点滅していた。
男の子はエンディングの歌よりも
その光のほうをじっと見ていた。
言葉にできない“もやもや”が、
胸の奥で静かにふくらんでいく。
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