金曜の夜から始まり、土曜と日曜いっぱいまで使って、私は先輩と共に愛情たっぷりの監禁拘束生活をすごした。その間はずっと目隠しをされたままで、口枷も食事の時しか外しては貰えなかった。喋るのは一切禁止だったので勿論!ちゃんと守り、他の命令も全部素直に従った。三食ずっと給餌みたいな食事だったけどそれすら嬉しくって堪らず口元がニヤけていた気がする。『……随分とよく食べるんだな』とちょっと呆れ声で言われたけど、まぁ私的には『アレだけ体力を削られているのなら当然だよね』って感じだ。先輩の立場としては、精神的に追い詰められ、怯え、恐怖から食事も喉を通らないであろう姿を私に対して想像していたのだろうからすまない事をしてしまったのかもしれない。
それらに加え、お風呂にも入れてくれ、トイレの管理もされちゃったからもう絶対に他にはお嫁に行けない身にもなったが元よりそのつもりなので、かなり恥ずかしいけど良しとしよう。
「——目隠しと口枷を順々に外すけど、今まで通り、叫んだりはするなよ?」
幸せの終わりでも近づいて来たのか、先輩の声が残念そうな色を帯びている。そんな先輩の雰囲気に激しく同意しか出来ないまま私が頷くと、先輩がまずは目隠しの方をそっと外してくれた。過去一の長さで閉じられたままになっていた瞼をゆっくり開く。目に飛び込んでくるであろう明るさに怯えながら瞼を開けたが、部屋はまだ少し暗かった。夕方か、朝方か。どちらかは不明だが、レースのカーテンの向こうがまだ暗い。
ソファーに座っている私は、そっと顔をあげて先輩の顔をじっと見た。ビクッと体を少し震わせた先輩の姿がちょっと可愛い。
「……誰か、わかんないんだろう?」
いいえわかりますよ、と言うべきか迷ってしまう。でも先輩を恋しく思ってしまう感情は瞳に現れてしまってでもいたのか、神楽井先輩の瞳が戸惑いで揺れた。
「いいか、よく聞くんだ」と言い、先輩がぐっと私の両頬を掴むかの様な勢いで触れてきた。
「この三日間のお前の痴態は全て録画してある。ベッドでも、風呂場も、余す事なく、全部、ね。……賢い君なら、この意味がわかるだろう?誰かに助けを求めでもしたら、それらがどうなるのか、簡単に想像出来るよな?……嫌、だろう?いやらしく腰を振って、雄を強請ってる姿を世界中に観られでもしたら、もう一生外には出られないもんな」
確かに。内勤職であるSEとは思えぬ先輩のその逞しい体で貪るように腰を振っている姿を世界的に配信なんか絶対させたくない。ってか私しか観たくないし、何だったらデータをコピーして欲しいくらいだが、他人になんか死んでもごめんだ。
また頷いて返すと、先輩は満足気に微笑んだ。初めて見る表情でくらりと視界が揺れる。
「データはオレの手の内だ。ソレがこちらにある以上、お前に自由は無い。一生、ずっとオレが——」まで言って、先輩の声が一度途切れた。
「死ぬまでオナホとして使ってやるよ」
耳元で囁かれた言葉で私の心は射抜かれた。本来ソレは使い捨てであり、消耗品だ。それなのに私の場合は『一生』使って頂けると。つまりそれはもう『結婚しよう』と言っているも同義なのでは?
そう都合良く解釈した私は内心では大歓喜しつつ、でも、加害者意識を抱いてしまっていそうな先輩が警戒しない範囲で首肯してみせた。そして自分から先輩に近づき、頬に、口枷越しではあるものの口付けを贈り、頬を猫みたいにすり寄せた。その行為に驚き、バッと距離を取られてしまったが、今度は先輩の足元に跪いて足の甲に口付けてみた。
「……本当に、堕ちた、のか?」
戸惑う様な声色で先輩が小さく呟く。熱っぽい眼差しで先輩を見上げると、ゴクリと生唾を飲みながら私の口枷を外し、貪る様なキスをプレゼントしてもらえた。
——今日はもう月曜日の早朝だったらしく、プロポーズじみた『脅迫』をしてくれた後はそのまま一度、私が住むマンションにまで車で送ってくれた。「そんな格好じゃ、仕事にも行けないだろう?」と言いながら胸の先をピンッと指先で弾かれた時は、甘い声が出そうになってヤバかった。このまま先輩の部屋で監禁生活に突入ではなかったのは些か残念だけど、仕事も大事なので文句は無い。
下着を身に付け、服を着てリビングに戻ると、何故か先輩が荷造りをしていた。私の旅行鞄を勝手に持ち出し、歯ブラシ、化粧品、ほぼ全ての下着と何着かの服を綺麗に詰め込んでいく。律儀に命令を聞いたままである私は無言のままその様子をじっと見守っていると、神楽井先輩はニヤッと笑って「もうこの部屋には戻れないと思っておけよ」と言ってくれた。
(『監禁ルート』ですか?いや、そこそこに良識の範囲での行動をしたがっているかもだから、『いきなり同棲ルート』かも!)
犬ならば尻尾をぶんぶんと振っていそうな気がするくらいにソワソワしてしまう。歓喜で口元を震わせていると、「……お、思ってた反応と違うな」と先輩が小さく呟いた。
「この荷物は車に積んだままにしておくから、このまま真っ直ぐ職場に向かうぞ。……部屋の解約も、こっちでやっておくから変な足掻きはしようとするなよ」
釘を刺されたが大歓迎だ。でも色々な解約の手続きとか引っ越しの手配などといった面倒事を全て任せてしまうのは流石にちょっと気が引ける。
「……自分で、やりますよ?」と言うと、色素の薄い瞳で睨まれた。
「下手に動くな。裏工作でもされたらたまったもんじゃないからな」
顰めっ面をしながらトンッと胸元を指で押された。逃げる工作をするんじゃと警戒してくれるって事は、逃したく無いくらいには思ってくれているって事ですよね!
最低限の荷物を車まで運び、お次は職場まで車で送ってくれる。その間先輩はずっと気まずそうな様子だったのだが、私の方はこの幸せな週末を反芻しまくり、『今日は仕事になるかなぁ♡』なんて心配で頭の中が一杯なのだった。
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