テラーノベル
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ノッテンガム卿の腹心、ガイは兵を集めた。
春の曇り空の下、鎧を着た兵たちが城門前へ並ぶ。
槍兵。
そして棍棒を持った私兵たち。
総勢三十ほど。
森の盗賊狩りには十分な人数だった。
ガイはその列を眺めながら、
ひときわ大きな男へ声をかける。
「ジョン、準備はできたか」
「はいー」
間延びした返事。
大男ジョンは、六尺棒を肩へ担ぎながら、
眠そうにあくびをした。
背丈は兵士たちより頭ひとつ大きい。
腕も丸太のように太い。
だが表情には緊張感の欠片もなかった。
「子供相手だが油断するな」
「森は連中の庭だ」
「隊列を崩すな」
先日、斥候が森で見つけた柵。
あのあたりに賊の根城があるはずだった。
子供の遊びに毛が生えた程度のものだろう。
そう思っている。
「先日見つけた柵のあたりだろう」
「いくぞ」
兵たちはぞろぞろと歩き始めた。
鎧の音。
馬のいななき。
土を踏む靴音。
その列はゆっくりと、
シャーウッドの森へ向かっていく。
春の風が吹いた。
森の木々がざわりと揺れる。
ジョンは棒を肩へ乗せたまま、
ぼんやり森を見上げた。
「子供相手かあ……」
「正直、あんまやる気出ねーっす」
「黙れ」
ガイは短く返した。
だがその口元には、
まだ余裕がある。
どうせすぐ終わる。
森へ踏み込めば、
怯えた子供たちが逃げ出す。
そう思っていた。
――シャーウッドの森が、
すでに“戦場”へ変わっていることを、
彼らはまだ知らない。
「きたぞー! やつらだ!」
木の上から、少年の声が響いた。
見張り役の少年――トムが、
枝の間から森の入口を指差している。
その声を聞いた瞬間、
焚火の周りにいた子供たちが一斉に立ち上がった。
「トムの隊が遭遇したようだ」
サイラスは地面へ描かれた地図を見ながら、
静かに口元を緩める。
「各員、配置につけ!」
「アイアイさー!」
子供たちは慌てて森の奥へ駆け出した。
弓を持つ者。
石を抱える者。
縄を引きずる者。
シャーウッドの森が、
ざわざわと動き始める。
サイラスはロビンへ視線を向けた。
「出番だ」
ロビンは小さく息を吐き、
弓を握り直した。
「……了解」
その目には、
もう迷いはない。
一方――
ガイ率いる部隊は、
森の細道を進んでいた。
だが隊列は乱れている。
狭い森道では横に広がれず、
兵たちは自然と縦長になっていた。
しかも足場は悪い。
木の根が地面から浮き出し、
枝葉が視界を遮る。
「ったく、歩きづらい森だな」
兵士の一人がぼやいた、その時だった。
ひゅっ――
目の前を、
緑の服を着た少年が横切った。
「なっ!?」
さらに次の瞬間。
びゅっ!
一本の矢が飛ぶ。
兵士の帽子をかすめ、
後ろの木へ突き刺さった。
「ロビンだーっ!!」
誰かが叫ぶ。
「捕まえろ!!」
兵たちが一斉に駆け出した。
だがその瞬間、
森の奥で、
誰かが小さく笑った気がした。
――戦いが始まった。
ロビンは全速力で森の奥へ駆け出した。
枝を払い、
木の根を飛び越え、
獣道のような細道を迷いなく進んでいく。
「待てーっ!!」
兵たちは怒鳴りながら追いかけた。
だが森の道は狭い。
鎧を着た兵士たちは思うように走れず、
互いに肩をぶつけ合っていた。
しかも道の途中には、
倒木。
縄。
積み上げられた枝。
石。
わざと置かれた障害物が次々と現れる。
「くそっ!」
「なんだこの森は!」
兵士たちは息を切らしながら、
必死にロビンを追った。
だがその時。
「こっちにもロビンがいるぞー!」
脇の林から声が響く。
振り向くと、
緑の服を着た少年が一人、
にやりと笑って走り去っていった。
「なにっ!?」
さらに反対側でも。
「こっちもだー!」
また別の“ロビン”が現れる。
「全部捕まえろーっ!!」
兵士たちは完全に混乱した。
右へ。
左へ。
森の奥へ。
隊列は崩れ、
ばらばらに散っていく。
――その瞬間だった。
「うわあああっ!?」
一人の兵士の足が縄へ引っかかる。
次の瞬間、
木の上へ勢いよく吊り上げられた。
「た、助け――」
「うわああ!」
「助けてくれ!」
兵士が木の上へ吊り上げられる。
その横をジョンだけが普通に歩いていく。
「あれえ?」
「みんな何やってるんだあ?」
さらに別の兵士は、
地面へ落ちた。
「ぎゃっ!」
落とし穴。
枯葉の下へ隠されていた穴へ、
頭から突っ込んだのである。
「いたたたた……!」
その横では、
網が空から降ってきた。
「なんだこれっ!?」
数人の兵士がまとめて絡め取られ、
地面へ転がる。
すると茂みの奥から、
子供たちが飛び出してきた。
「今だー!」
棒を持った子供たちが、
わあわあ叫びながら兵士たちを叩き始める。
「いてっ!」
「やめろ!」
「頭はやめろ頭は!」
森のあちこちで悲鳴が響いた。
その頃――
少し離れた丘の上で、
サイラスは静かにその様子を眺めていた。
「うんうん」
満足そうに頷く。
「やるじゃないか、子どもたち」
隣のユンナは、
呆れたようにため息をついた。
「子供を戦わせるのどうかと思いますよ」
その混乱の中を、
ジョンだけがのそのそと歩いていた。
「にぎやかだなあ」
六尺棒を肩へ担いだまま、
彼は森の奥へ進んでいく。
のんびり呟きながら、
六尺棒を肩へ担いで歩いていく。
やがて目の前に、
細い川が現れた。
川へ渡されているのは、
一本の丸太だけ。
ジョンは橋の前で立ち止まり、
うーんと考える。
「丸太の橋は……」
「ゆっくり歩かないと危ないんだなあ」
慎重に、
そろそろと足を乗せた。
その時。
「おい、そこの大男!」
向こう岸から声が飛ぶ。
ジョンが顔を上げると、
緑の服を着た少年が立っていた。
弓を背負い、
鋭い目でこちらを睨んでいる。
ロビンだった。
「おれと勝負しろ!」
ジョンは目をぱちくりさせた。
「ん?」
そして、
なんだか嬉しそうに笑う。
「お前がロビンかあ」
「会いたかったぞー」
ロビンは橋の中央へ進み、
腰の剣を抜いた。
「勝負だ」
ジョンは六尺棒を持ち直す。
「しょうぶう~?」
「いいよー」
のんびりした返事。
だが次の瞬間、
六尺棒が風を裂いた。
ぶおんっ!!
ロビンは慌てて飛び退く。
丸太橋が大きく揺れた。
「うわっ!?」
「おっと」
ジョンは悪びれもせず頭をかく。
「橋、せまいねえ」
ロビンは剣を構え直した。
対するジョンは、
まるで薪割りでもするような気軽さで棒を構える。
細い丸太橋の上。
下には冷たい川。
落ちれば終わり。
森の中で、
奇妙な一騎打ちが始まった
丸太橋を大きく揺らしながら、
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コメント
1件
第3話、めちゃくちゃ面白かったです!子供たちが森を舞台に大人の兵士たちを翻弄する戦術が痛快で、まるで本当に戦場を見ているかのような臨場感がありました。特に丸太橋のシーン、大男ジョンののんびりしたキャラとロビンの緊張感の対比が絶妙で、どうなるんだろうと手に汗握りました。後半の王宮の場面も世界観に奥行きが出て、続きが気になります!