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『───ありがとう。凄いね、握力強くて!』
褒められても嬉しくなかった。というか、プルタブを開けたくらいで褒められるなんてしょぼすぎる。それに、プルタブを開けられなければ握力的に弱すぎるだろう。
そう思っていた反面、どこか嬉しかったのは隠した。小さなことで喜んだ自分が、しょうもなく見えたからだ。
『なっ、ど、どうしたのそれ?!』
すごく困惑した顔に、心配の色。全身くまなく見る彼の顔を見て、自身は思った。
───なんで、彼のところに来たんだろう。
いつものように服の汚れを落としてから教室に行けばいいものを、なぜ自分は彼のところへ真っ先に向かったのだろう。
『プルタブに、また負けちゃった』
それでいて、なんで彼は自身のことに関して一切聞かないのだろう。
『───もっと簡単だったらよかったのにね』
『君も、サボる?』
なんで、彼は毎度優しい言葉をかけてくれるのだろう。
『───偉いね』
なんで、彼は───いつもほしい言葉をかけてくれるのだろう。
エスパー? 超能力者?
何度彼を疑ったことか。それでいて、何度心が温まったことか。今まで感じたことのない温もりだと思った。初めて、友達の温もりを感じた気がした。
冷凍食品を温めたらラップに水滴がつくように、僕の目からも水が落ちていた。
……………
「そ、れは……───わかんないですけど、きっと味方がいるから……」
驚いた顔をしてこちらを見つめるのは、僕が勝手に味方だと思っているクロノアさんだ。目を見開きながらも、どこか泣きそうな顔をしている彼に、少し照れくさくなった。
「───へえ。じゃあ、これは自分からの頼み事なんですけど」
興味なさげな返事をしたと思えば、次に相手は言葉を続けてそう喋った。
───頼み事?
クロノアさんと2人してハモってしまったのは納得できるだろう。初対面の人に、それでいて意味不明なことを言うやつに、頼み事を頼まれるなんて不思議でならない。
彼の顔はレジ袋によってよく見えないが、彼はどこか緊張した雰囲気を纏っていた。
「───2年生にいる”イノチシラズ”を、任せられませんかね?」
はあ?と口から出そうになるのを必死に抑えた僕は、ちらりとクロノアさんを見た。
…………………………
2年生にいる”イノチシラズ”。
誰なんだと思った。けれど、なんだかそれがどこの誰なのかは聞ける雰囲気ではなかった。
クラスは1学年4クラスの45人あり、A〜D組の180人の中でその人を見つけるとなると、苦行な気がする。
それでいて、本名を教えてくれないあたり訳ありなのだとすぐにわかった。
「……それ、俺たちにとって重要なこと?」
そう言葉をかければ、相手はぴくりともせずその場にいた。びっくりしていたのは、むしろ隣に座っていたしにがみくんだ。
俺のことだから助けるのだと思ったのだろう。けど、自身からすれば、それは”部外者が割り込んでいいものなのか”がわからなかったのだ。
「でも、クロノアさん……もし僕みたいに困ってる人なら……」
珍しく焦るような声を出したしにがみくんは、相手のトラゾーという後輩と俺を交互に見つめた。
「───”イノチシラズ”って子が困ってるかなんて教えてもらってない。何に関しても教えてもらってない。教えてもらわないと……部外者立ち位置の俺たちは動きたくても動けないんだよ」
走り出しそうな足を、滑りだしそうな口を、必死に抑えた。
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