テラーノベル
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車が滑るように走り出し、流れていく東京の夜景を見ながら、俺は心から安堵の溜息をついた。
かつての、恐怖に支配された悪夢のような帰り道は、もうどこにもない。
隣にいる尊さんの体温と、車内に漂う微かな彼の香りが
俺の忌まわしい過去を新しく、温かい思い出で塗り替えていくのを感じていた。
「……尊さん、何から何まで……本当にありがとうございます」
小さく呟くと、尊さんは少し照れくさそうに前を見据えたまま
「これぐらいしか出来ないからな」と短く答えた。
◆◇◆◇
数十分後…
家の中まで送ってもらうのはさすがに申し訳ないと思い、マンションから少し離れたところで降ろしてもらった。
「暗いから気をつけろよ」と、背中にかけられた念押しのような低い声が耳に残っている。
俺は自分の住むマンションの前まで着くと、心地よい疲れを感じながら階段を登り始めた。
だが、自分の階に近づくにつれて、得体の知れない違和感が胸をよぎった。
鼻をつく、妙な匂い。
(あれ……? この匂い……)
玄関ドアの前に辿り着き、鍵をポケットから出そうとした瞬間
鼻を劈くようなタバコの嫌な匂いが周囲に漂っていることに気づいた。
脳裏を過る記憶。
確か、前にもあった。
今までは、会社で延々と説教を垂れる室井さんの姿を思い出していた。
けれど、今の俺の脳裏に真っ先に浮かんだのは、亮太さんの姿だった。
あの人は、よくタバコを吸っていた。
『恋くんが俺以外の子と仲良くするから、僕はストレスでタバコを吸わざるを得ない。僕の寿命が縮むのも、全部恋くんのせいなんですよ。わかりますか?』
そう言って、煙を顔に吹きかけられながら刷り込まれた呪いの言葉。
「……まさか、亮太さん……?」
その可能性に思い当たり、心臓が喉から飛び出るかと思うほどドクンッと大きく跳ね上がった。
全身の毛穴が収まるような感覚。
「いやいや、そんなわけない……考え過ぎだ。あの人の姿なんてどこにもなかったし、終わったことなんだから……」
自分に言い聞かせ、震える手で鍵を開けようとした、その時だった。
「──気づくのが遅いですね、恋くんは」
鼓膜に直接注ぎ込まれたような、低く、冷徹な声。
同時に、後ろから手首を万力のような力で掴み上げられた。
「ひっ……!」
肩がびくりと震え、全身の血の気が引いていく。
ゆっくりと、錆びついた人形のように後ろを振り向けば
そこに立っていたのは、街灯の逆光を浴びて不気味に微笑む、紛れもない亮太さんだった。
「また〝その目〟ですか。……悲しいですね、僕を見てそんなに怯えるなんて」
突然のトラウマの再発。
身体から力が抜け、俺はその場に膝から崩れ落ちた。
コメント
1件
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙恋くんーーーー 今すぐ尊さんのところに逃げてくれ、、