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第57話:未来音楽祭
夜の「未来特区」中央広場。光のステージが設置され、巨大スクリーンには「協賛未来音楽祭」の文字が映し出されていた。観客席はすでに満員。市民たちは皆、ヤマトフォーン(ヤマホ)を片手に入場ゲートを通過していく。
水色のシャツに短パン姿のまひろは、肩から小さなバッグを提げ、目を輝かせていた。隣にはラベンダー色のブラウスにベージュのスカートを着たミウ。イヤリングを揺らし、ふんわり微笑みながら人混みを歩いている。
入場ゲートでは、大型端末に向かってカナルーン入力を行う。
「コンサート → ミライオンガクサイ ニマイ → カイケイ → ケッサイ → オワリ(アンズイ)」
ピッと音が鳴り、緑色の光が流れてゲートが開く。市民は一人ひとり入力を済ませてから会場へ入るのが義務だった。
ステージに現れたのは、協賛アーティストと呼ばれる若者たち。全員が未来風の衣装を纏っていた。濃い緑のジャケットに緑のアクセサリーをつけた男性ボーカル、そして水色のドレスを纏った女性シンガー。観客がヤマホをかざすと、スクリーンに「安心協賛ソング」と表示され、歌詞がカナルーンで流れる。
「ハジメル → オンガク → オワリ(アンズイ)」
ステージ前の観客たちは、音楽が終わるたびにアンズイを声に出して唱和した。
まひろは目を輝かせながら言った。
「ぼく、こんなに大勢で同じことばを言うのって初めてだよ。なんだか安心するなぁ」
ミウは微笑みながら頷いた。
「え〜♡ これが“未来音楽祭”なんだよ。カナルーンで始めて、アンズイで終わる。安心って、音楽みたいにみんなで共有できるんだよねぇ」
だが広場の天井には、協賛の名の下に設置された無数の監視カメラが光っていた。観客の顔、入力ログ、声に出したアンズイのタイミングまで、すべてがリアルタイムでネット軍に送られていた。
暗い部屋で、緑のフーディを羽織ったゼイドが映像を見つめる。
「音楽でさえ、入口は呼び出しカナルーン、終わりはアンズイ。
“安心の歌”を合唱させれば、疑う余地すらなくなる……」
モニターには、笑顔でアンズイを唱える数万人の観客が映っていた。